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「ミレニアの婚約をどうにかしろって? カズはまた突然何を?」  その日帰宅したライザックの身の回りの世話をしつつ、俺は今日あった事をライザックに報告する。ハインツは汚れ物だけ受け取って「お邪魔でしょうから」と早々に姿を消したのだが、お邪魔ってどういう意味なのか俺にはよく分からない。まぁ、2人きりの方が気兼ねなく喋れるのは確かなんだけど。 「だってミレニアさんって両親に政略結婚させられるんだろ? なんか、そういうの俺好きじゃないんだよなぁ。好きな相手がいるのに無理やり諦めるとか嫌じゃね? それにこの家だって執事のミレニアさんがいなくなったら困るんじゃないの?」 「まぁ確かにミレニアはよく働いてくれているし、いなくなると困るというのは間違いないのだが、他人の生活に口を出すのは例え主人でもあまり良くない事なのではないだろうか?」  確かにライザックの言う事は正論だけど、ちょっと冷たい。 「それにミレニアの婚約者は獣人国の重鎮の息子、下手な事をすれば国交に響く。私が簡単にどうこうできる問題ではない」 「そうなんだ?」  でもちょっと不思議なのは、そんな国交に響くようなお偉いさんの息子の婚約者がなんでここで執事として働いてるんだ? という疑問。そもそもそれおかしくない? 「それでも私達も微かな抵抗はしているのだぞ? 私とミレニアは従兄弟同士で獣人国に居場所のなかったミレニアが成人するまでという条件付きで我が家へと送られたのだ。本来ならばもうとっくに獣人国へと帰らなければならない年齢なのだが、手に職を付け自立する事で家のしがらみから抜け出そうとミレニアは執事という職を選んで我が家で働いている」 「そうなんだ……」 「家のしがらみに縛られているという点では私もミレニアも同じで、言ってしまえばそれに抗う戦友みたいなものなのだけれど、それを言った所でカズにはまだ分からないか」  むぅ、それを言われてしまうと俺は何も言えないな。そもそもぽっと出の俺が口を挟む問題じゃないって事だもんな。 「まぁ、我が家の事は置いておいて、それよりもカズの体調は? どこかおかしな所があるようだったら遠慮なく言うんだぞ?」 「体調? お陰様で全然元気! 変な後遺症もなかったし、これもライザッ……旦那様のお陰です」 「二人きりの時は構わないと言っているのに」  苦笑するようにライザックは笑うのだけど、それでもやっぱりな。 「いつ何時後遺症が出てくるかは分からない、その時にはすぐに私に言うのだよ」  瞳を覗き込むようにして俺に語りかけるライザックの笑みはどこまでも優しい。俺は少しだけそんな彼の笑顔にドキドキしてしまう。まだこの世界の事をよく分かっていない俺だけど、少なくとも主人と従者は対等でないという事くらい分かってる。 「ライザックは本当に優しいな。だけど、なんでそんなに俺に良くしてくれるんだ? 助けた人間をいちいち懐に入れてたらキリがないだろう? 俺は滅茶苦茶助かったけど、損したりしてねぇ? 大丈夫?」 「損? は別にしていないが?」 「人が良い所に付け込まれて騙されたりしないかすごく心配」 「はは、心配してくれるのか?」 「ライザックは命の恩人だからな」  あ、ライザックって呼んじゃった。でも、いいって言ったし、まぁいっか。 「私にとってもカズは特別なんだ、これは私にとって打算的な部分もあってカズにそこまで心配されると逆に申し訳なくなってしまうな」 「特別? 打算?」 「それが誠になるか嘘になるか、それは分かりはしないけれど、私にとってカズが特別な存在である事は間違いない」 「言ってる意味がさっぱり分からないんですけど?」 「今はまだ何も知る必要はない、カズはのんびりとこの家で過ごしてくれたらそれでいい」  ??? 本気で何が何だかさっぱりなのだが、とりあえずこの見も知らぬ異世界で衣食住に困らないのはとても助かる。にこりと笑ったライザックにこちらも笑みを返して、俺は『まぁいいか』と仕事に戻った。

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