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本音

「でも、僕達の孫には違いない。だって目元なんかライザックにそっくりなんだ。シズクちゃんはどんな姿をしていても僕の孫だよ」  そう言って、お義父さんは俺の腕の中のシズクの後ろ頭を優しく撫でた。 「僕はライザック、君が産まれた時とても嬉しかったんだ、この子を一生幸せにするってそう思った。だけど僕にはそれは叶わなかった」 「そうだ、お前は家族を捨てたのだからな!」  吐き出すように言い切るハロルド様にお義父さんは悲しそうな顔を向けて「僕はそれでも幼いライザックは連れて出たかったんだ……」とそう言った。 「渡す訳がないだろう! お前が可愛がれば可愛がるほどライザックはお前にばかり懐いて、私に抱かれれば泣いてばかりいた、そんな理不尽あってたまるか。私が腹を痛めて産んだんだぞ! だからお前には絶対に渡さないと、私はそう決めていた」 「君はそんなだからライザックに嫌われるんだよ」 「んなっ!」 「まぁ、僕も人の事は言えないけど。結局僕は自分の居心地のいい場所を求めて逃げ出したんだから」  お義父さんがへたり込んだままのハロルド様の前にしゃがみ込み、ハロルド様の顔を覗き込んだ。 「ねぇ、ハロルド、もうこういうの止めにしよう? 僕達は幸せな家族を築けなかったけど、それを子供にまで押し付けるのは駄目だと思う。そんなの親失格だろう?」 「お前はそれでいいかもしれないが、それで私に一体何が残る!? 何も残らない、この家屋敷も失って、家名も失い一体私にどうしろって言うんだっ!!」  ハロルド様の叫びにお義父さんは一言「自由になったらいいんじゃないかな」とハロルド様の頬に手を伸ばした。 「僕達は無為な時を過ごして時間を無駄にしたけど、まだ自分の人生を諦めるには早すぎると思わない?」 「なに……を」 「ハロルドは何かやりたい事はない? 行きたい場所はない? 今までやりたくて我慢していた事もあっただろう? そういうの、始めるなら今だと思うよ?」 「私の、やりたい事……」 「何もないなんて事、ないよね?」  ハロルド様が戸惑ったように俯いた。 「僕は君のしたい事に協力は惜しまないつもりだよ。ただ、贅沢がしたいっていうのはごめん、お金は有限だから限界があるけれど……」 「そんな事……」  長い沈黙、シズクがむずがるように俺の服を引っ張り暴れ出す。たぶんこの状況、シズクにとっては退屈で仕方がなかったのだろうけど、ダメだよ、その辺にまだ茶器も転がってるし下ろせない。 「こら、シズク、もう少し大人しくしてて」  宥める俺の腕からライザックがシズクを抱き上げた。そしてそのまま高い高いをするように抱いた腕を上に上げると、シズクは嬉しそうにキャッキャと笑う。  緊張したような空気が少し緩む、そんなライザックとシズクの姿を見て、ハロルド様が「私はただ愛されたかった」と呟いた。 「昔から私には居場所がなかった、身体が弱いせいで親の期待にも応えられず、この屋敷に嫁いできても、お前はどこか私を腫れ物を扱うような態度で居心地が悪かった。お前の幼馴染は来訪しては私を睨むし、大嫌いだったあんな奴」 「え……ごめん! エッジ元々目つき悪いから睨んでた訳じゃないと思う!」 「お前は分かってないな」 「え?」 「私は最初から好かれてなかった、当たり前だ、あいつは私が嫁ぐ前からお前を愛していたんだろう。だから私は余計に意固地になった。私が望んでも得られないものをお前は当たり前に持っていて、それが本当に嫌だった」 「ハロルド……」  ハロルド様は俯くと自身の両手の掌を見やり「私はただ愛されたかった」ともう一度言う。 「そこの赤子のように無償の愛を注がれる存在に私はなりたかった……だが誰も、私を愛する者などいやしない」 「僕は君が好きだよ」 「だが一番ではないのだろう?」 「そこは、ごめん」 「私は愛されたい。だが、それは叶わぬ夢だろう。誰も私を愛したりはしない、親でさえ、我が子でさえそっぽを向くようなそんな人間、一体誰が愛してくれる?」  今まで見た事がないほど、ハロルド様が弱々しい。ああ、この人もまた、ただ自分の居場所を守ろうと頑張っていただけだったのだな……

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