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アサギ、ラシャ、コハク

目の前には僕を襲ったばかりの彼……同じ黒服で中は水色のTシャツを着ていた。 「かなり深そうだったから……頑張ったんだから少しは褒めてよ」 満足したように舌舐めずりした顔に似合わず、不満そうな声を彼は出す。 「いや、これは食っとるで?」 掠れたような声が聞こえたから顔をちょっと右側に向けると、茶色い短髪の男性が新聞の上から顔を出し、声を殺して笑っていた。 「ラシャくんどうも〜」 ニコニコ笑いながらカウンターの椅子からこっちに歩いてくるオリベ。 「ほんとお前は……アーサーギー!!」 目の前の彼……アサギさんは首根っこを掴まれて後ろに引きづられていく。 「ゆ、ゆるし……あああ〜」 オリベに両側のこめかみを男らしいゴツゴツの拳でグリグリと押され、甲高い声で叫ぶアサギさん。 「ほんま……俺の、大事な……このくそ」 ブツブツ言うオリベに嬉しいけど、ちょっと怖いなと思う僕。 「オリちゃん、かわいそうですから勘弁してやってくださいませ」 カウンターの向こうで穏やかな口調の割にニヤニヤと笑っている男性は、中に黄色のTシャツを着ていた。 オールバックで後ろにこげ茶の髪を流している人が実はタイプな僕。 じっと見ていたのに気づいたのか、その彼が僕に大人の笑みを浮かべ、右目でウインクをしてきた。 「……コハク、見えてんで」 手を休めずに氷のような声でオリベが言うと、何もしてないよと示すようにこげ茶の人……コハクさんは口笛を吹いた。

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