3 / 53

第3話

しかしながら、ルベリアが先程から薄々感嫌な予感が的中してしまう。 ナンダは手を差し延べてきた《キャンベル伯爵》を、まるで最初からいない者であるかのように、まるっきり無視したのだ。 見る見るうちに《キャンベル伯爵》の顔が不満げに歪んでいく。しかし、彼は子供ではなく大人なのでぐっと怒りを堪えながらナンダから離れると、今度は焦りをあらわにして固まったままのルベリアの方へと歩み寄ってきた。 「……っ…………!?」 いくら、ナンダが思った程よりも酷い態度を《キャンベル伯爵》に対してしなかったとはいえ――存在そのものをいないものとみなしたナンダの態度は、やはり無礼極まりない。 そのため、顔を引きつらせ眉を潜めている彼から、何を言われるのだろうか__と身構えたルベリアの肩を《キャンベル伯爵》は、やや乱暴に掴むとそのままキスしようと顔を近付けてきた。 すると、今まで鳴きもせず佇んでいただけのナンダは途端に今度こそ取り返しのつかない無礼な態度を《キャンベル伯爵》へととってしまう。 ルベリアに対して半ば強引にキスしようとした《キャンベル伯爵》に勢いよく飛びかかり、あろうことか驚愕の表情を浮かべながら振り返った彼の顔を赤みを帯びて怒りに染まった嘴で傷つけたのだった。 * その後のことは、ルベリアは思い出したくもなかった____。 《キャンベル伯爵》はルベリアに対して声を荒げたり、ましてや乱暴を働くといったことはしなかったとはいえ、今までの出来事を全て両親へと報告したのだ。 散々、両親に説教され、それと同時に呆れられてしまった。 父からは、「お前には失望した…折角の特別な存在だというのにそれを無下にするとは。いや、いっそ……お前など生まれなければ……っ……」などと冷たく言われ、母からは特に何も言われなかったものの、失望の目で見つめられたため心が折れてしまったのだ。 その後、憂鬱な気分に支配され、ナンダしかおらず一人きりの冷たい部屋に戻り、灯りもろくに照らさない薄暗い中でひとしきり泣いた。 そして、今に至る____。 あれからも、ルベリアは涙も出なくなってしまう程に泣き続けた。この部屋には鏡がないため確認することは出来ないけれども、おそらく目が真っ赤に充血し酷い顔になっているのだろう__と思ったルベリアは、その情けなさを改めて自覚して尚のこと憂鬱な気分になってしまう。 せっかく、メイド達によって整えられシワひとつないフカフカの布団に包まれているというのにルベリアの涙で濡れて台無しだ。 そして、憂鬱な気分に支配されたルベリアは心にモヤモヤした気分を抱きながらも、やがて夢の世界へと誘われるのだった。 *

ともだちにシェアしよう!