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第4話

* それから、どのくらいの時が経ったのだろうか。 楕円形の窓から差し込む光を浴びて目をゆっくりと開けたから、とりあえずは朝を迎えたことだけはルベリアにも理解できた。 しかしながら、体も頭も___まるで鉛が乗っかっているように重い。すぐにでも立ち上がって身支度をしてから、家族が待っているであろう【王の間】へと行かなくては――という気持ちは全く起きなかった。 「キュ、ルル……キュルル…………」 厚手の赤いカーテンの僅かな隙間からしか陽光が差さないため、夜のように薄暗い部屋の中から聞こえその鳴き声は、ひとしきり泣き通してしまった主を心配するナンダのものだ。 ベッドに身を横たわらせるそのすぐ側で、主であるルベリアを慰めようと必死で悲しみの込もった鳴き声をあげている。 その儚げな鳴き声が、ルベリアには謝っているように思えて自然と笑みが零れてしまう。 そして、ルベリアはゆっくりと身を起こすと、幼き頃より家族と認めているナンダを大事に抱き寄せた。 「馬鹿だね……僕は、お前を本気で怒った訳でも__ましてや、嫌いになった訳でもないよ。だから、もう――泣くのはお止め」 そこで、ようやくナンダは悲痛そうな鳴き声をあげるのは止めた。 そして、そのタイミングとほぼ同時に遥か遠くにある異国のチョコレートという菓子みたいな造形の扉をノックする音が聞こえてきた。 どことなく、遠慮がちなリズムで繰り返されるノックの音____。 ノックをする人物が誰なのか、ルベリアにはすぐに分かった。年の離れた兄が、いつもするノックのリズムと全く一緒だったからだ。 仕方なしに、ルベリアはオズオズと扉を開ける。予想通り、そこには第一王子のセレドナが立っていた。ルベリアは第三王子のため、年齢は大分離れているものの、家族の中で一番気を許せる相手でもある。今よりも幼い時は、よくセレドナのベッドに潜り込んで甘えたりしていた。 頬辺りにつくくらいの銀色の髪に、海を隔てた異国――【ク・ラーサ】に飢えられている王国花のような美しい桃色の瞳。一目を引く女性のような顔立ちであり、尚且つ性格も穏やかで物腰も低いため王族や国民達の評価も高く人望もある。人を選びそうな銀縁眼鏡も、とてもよく似合っている。 第二王子で、ルベリアのもう一人の兄である【ルリアナ】とは大違いだ。可愛らしい名前の響きとは裏腹に、そっけなく無口なためルベリアは家族の中でこの兄がずっと昔から一番苦手なのだ。 「お……おはようございます___セレドナお兄様。あの、もしかして……これから朝食なのですか?」 「ええ……その通りです。母上も父上も__ルリアナも、あなたを心配していましたよ。キャンベル様と何があったのかは聞きました。ルベリア、落ち込む気持ちも分かりますが……皆、あなたを幸せにしてやりたいのですよ……無論、それは私もです。だから、さあ___」 一緒に【王の間】に行きましょう――とセレドナは言いたかったに違いない。それは、ルベリアにもよく分かりきっていた。 しかし、それに対しての返答をする前にルベリアは実兄へと背を向けて、再び部屋の中へと閉じ込もってしまった。 セレドナは暫しの間、そこにいてノックをし続け何事かを話しかけていた。しかし、やがて弟の説得を諦めたのか足音が遠ざかっていく。 兄にも呆れられ、孤独な少年を共に慰める【聖鳥】は、ずっと隣にいて再び悲しみの込もった鳴き声をあげるのだった。 *

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