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第11話

* 『実はね、こんな夜更けではなくて……明日の朝、あなたに大事なお話をしようと思っていたの。あのね、ルベリア……つい先程、イ・ピルマからあちらの王子とその付き人の方々がいらしたのよ。あなたとの……その――婚姻の件で___』 壁付けの蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ、心もとない明かりに照らされるだけの薄暗い廊下を独りで歩きながら、ルベリアはまたしても憂鬱な気分に陥っていた。 まさか、夜分にイ・ピルマの王子らが何も告げずに半ば強引な形でア・スティルへと訪問するとは予想していなかったからだ。 (しかも、その理由がよりによって僕との婚姻の件でだなんて――きっと父が謀ったんだ……また、ルリアナ兄様に嫌われてしまう……) 明日の朝が来なければいいのに――などと思ったけれども、それは不可能なことだと、すぐに思い直した。 しかし、それでもルリアナの顔を思い出すと、やはりため息が出てしまう。神経質で真面目すぎて、その反面に意地悪な兄のルリアナはイ・ピルマの王子の【ノスティアード】を少年の頃からずっと恋慕っているのだ。 まるで乙女のように一途なルリアナが、大嫌いな存在だと思っている自分によって、ノスティアード王子が奪われてしまうと知ったら烈火の如く怒り狂うか――もしくは、今度こそ呆れられてしまい見捨てられるかもしれない。 それが、ルベリアにはとても恐ろしい。 その光景を頭の中に思い描いて、幾度めかのため息をついた時――ふいに、前方に何かいることに気付いた。 (あれは……ダレダ!?何で――セレドナ兄様の部屋の前にいるんだろう……主であるルリアナ兄様の部屋の前なら、ともかくとして……っ__もしかして、何か変わったことでも……あったんだろうか……) 少し扉が開いているらしく、隙間から漏れる微量の部屋の明かりに照らされているせいでそれがルリアナの【聖鳥】だと分かって、少しばかりホッとしたものの疑問を抱いたルベリアは廊下の絨毯に体を横たわらせ寝息をたてて眠りについているダレダにバレないように忍び足で扉へと近づいていく。 ルリアナとのことを、まだ起きているらしいセレドナに相談したかったからだ。 そして、何とか足音をたてずに近づいていき――あと少し、といった所で【聖鳥】が目を覚ましてしまった。その途端、黒い毛に全身を覆われたダレダは声こそ出さないものの、何故かは知らないけれども激しくルベリアを攻撃してきたのだ。 嘴でつついたり、羽根でバシバシと容赦なく顔を叩いたりと、やりたい放題____。 (普段なら、こんなに興奮しないのに……いったい……どうして……っ___) 【ダレダ】の異変さを目の当たりにして、訝しげに首を傾げた。 しかしながら、ルベリアはそれよりも部屋の中から聞こえてくるセレドナともう一人存在する男の声の方が気になり、何とか錯乱状態のダレダを力づくで退かすと隙間から漏れてくる会話を盗み聞こうと耳を澄ませたのだ。 その衝撃的な出来事を目の当たりにして、ルベリアは目を丸くして息を呑んでしまう。 「あっ……んんっ……いっ……いやっ……いやです……父様……っ___ああっ……んあっ……」 一糸纏わぬセレドナが、ベッドに押し倒され半開きとなった口から甘い声で喘いでいた。しかも、血の繋がった兄を押し倒し、ア・スティル王として厳格さを尊び普段ならば決してあらわにしないような下品ともいえる笑みを浮かべつつつ、激しく腰を上下させ鼻息を荒くしながら情事に耽っている男は同じく血の繋がりのある父なのだったから。

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