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第12話

(そんな……そんな……っ____どうして……父上が……セレドナ兄様と、あんな卑猥なことを……しかも、血の繋がりのある……家族だというのに……) ルベリアの視界に映る光景が、ゆらりゆらりと目まぐるしく揺れ動く。 己が今、見えている世界全体がぐるぐると回ってしまっているように思え、それと同時に視界さえもボヤけてしま。二人の家族がベッド上で重ねあって抱き合っているという奇妙な光景も白い霧がかかっているように霞んでいて良く見えない。 それは、まるで、意識が自覚できる明晰夢の世界にいるかのよう____。 しかしながら、現実は厳しいもので夢心地とはいかない。 凄まじい衝撃を受けたせいで目眩を起こしかけているルベリアの耳に、二人の会話だけは一字一句ハッキリと聞こえてくるのだ。 「ああ、よい……よいぞ。やはり、お前は一番母である王妃の美しさを引き継いだな……っ____ルベリアの将来も楽しみだ。お前のように美しく育てば、イ・ピルマの王子以上の大物に嫁がせられるかもしれん」 「父様――最初の約束通り……あの子だけは酷い目に合わせないで下さい……私はいい。それを承知の上で……このような行為を受け入れているのです。でも、哀れで優しいあの子だけは……っ……」 ルベリアは兄の涙まじりの言葉を聞いて、耳を疑った。 セレドナは父から強制させられた訳でもなく、自らの意思でこのようなおぞましい行為をしているということが分かったからだ。 (は、早く……早く、ここから立ち去らなければ……これ以上ここにいては……気が狂ってしまいそうだ……早く……っ__) 己に言い聞かせるようにルベリアは何度も同じ言葉を心の中で繰り返す。しかし、目眩を起こしかけた体はうまいこと動かない。物音をたてないように注意しつつ、なんとか壁に凭れかかったルベリアは鉛のように重くなった足を引きずるようにしてゆっくりと動かした。 これ以上ここにいてはいけない___と警鐘を鳴らすかのように、目眩だけではなくズキンズキンと激しく脈うつ頭痛を起こしていたのだ。 ギシッ――キシッと軋むベッドの音に合わせらかのように、セレドナの鳴き声が重なる。 そんなセレドナの様を見て、満足げに笑ってからア・スティル王は彼の白い象牙のような肌を優しく抱いた。 そして、小さな子供をあやすかのような声色でこう言い放ったのだ。 「分かった、分かった……にしても、セレドナよ__愛しいお前と我との間に生まれたルベリアを悲しませようと思っているとは……なかなかに心外だな。αのお前とαの我との間にできた貴重なΩ種のルベリアを……酷い目になどあわせるわけがないではないか。ルベリアには、多大なる価値があるからな。今はまだ小さな蕾でも、いずれ成長し……お前のように美しく気高い存在となろう」 今までは必死に堪え、溢れ出るのを何とか我慢していたセレドナの泣き声が、いっそう激しくなる。 それと、ほぼ同時にルベリアはとうとう立っていられなくなり廊下に敷かれた絨毯の上に転倒しそうになってしまった。 けれど、そうはならなかった。 ルベリアは絨毯の上に倒れる寸前に温かい何かによって抱きかかえられ、やがて意識を失ってしまったからだった。

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