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第15話

* 「ねえ……ルー君さ____今、何か悩み事があるんでしょ?それも、些細な悩み事じゃなくて……とんでもない悩み事…………」 「…………えっ……!?」 唐突に、ノスティアードからそう尋ねられて呆気にとられてしまった。 彼の言う通り、ルベリアの心の中は小さなものから大きなものまで悩み事だらけで悶々としていたからだ。 朝食後、玉座の間にてノスティアードからルベリアと二人きりで話しがしたいと言うや否や、婚姻をうまく進めたいと願っている両親は大いに感激して半ば強制的に彼からの申し入れを承諾させられてしまった。 その後、皆と分かれて今に至る____。 ルベリアは自室にてノスティアードと共に団欒しているのだ。 もてなしとして出した【珈琲】なる異国から取り寄せた飲み物の苦味がかった馴染みのない香りが部屋の中に漂い、湯気が立ち込めるせいで曇った窓から外の様子を眺めるルベリア。 それは、もちろんノスティアードの容赦ない質問から何とか逃れようとしたためだった。 「駄目だよ……ルー君。俺の質問から逃れようとしたって無駄!!だって、君……昔と同じように都合の悪いことから目を背けようとしてたじゃないか……さあ、君の悩みを話してご覧?ここなら、君が苦手と思ってるルリアナや――ご両親だっていないだろ?それに、セレドナさんもいない。ここにいるのは、俺と……それにルシュだけだ……ね?」 ふいに、フワッと暖かいナニかによって体を覆われてしまったルベリアは咄嗟に身構えてしまった。しかしながら、すぐにそれは己の杞憂だと思い直す。 イ・ピルマに年中降り続ける雪と同じ色の羽毛に覆われたナニかはノスティアードを守護する【聖鳥】のルシュだと分かったからだ。 それに触発されたかは分からないが、ルベリアはしどろもどろになりつつも己の悩みをノスティアードへと話した。 《父や母》を失望させてしまっているのではないか、ということ。 《実の兄ルリアナ》とうまく関係が築けていないこと。 《キャンベル伯爵》に無礼を働いてしまい、彼の顔をマトモに見れないこと。 皆の期待を背負った《Ω種》として生まれてきたが自分には到底その役目を果たせそうにないと自信を喪失していること。 「なるほど、なるほど……確かにそれは多少はへこんでしまう悩み事だ。でも、ルー君……そんな誤魔化し方じゃ俺の目は誤魔化せないよ?些細な悩みじゃなく、本当にルー君が困って困ってどうしようもないことを……言ってごらん?」 「じ…………実は____」 と、ルベリアが意を決して重い口を開いてセレドナと父との口にするものおぞましい関係をノスティアードへと告げた直後のことだった。 「____っ…………おい、止めろ……っ……こちは餌ではない!!この、野蛮な聖鳥め……ノスティアード殿のルシュとは大違いだ……っ……」 どこからともなく、聞き覚えのある男の野太い悲鳴が聞こえてきたのだ。 「キルーガ……いくらお前だとしても、無礼にも程がある。ナンダが敵意を剥き出しにしても仕方ないよ……さあ、ルー君にきちんと謝って……それからどうしてこんなことをしたのか説明しなさい」 「…………」 暫しの間、部屋の中に沈黙が流れる。 「ど、どうして……僕の部屋に隠れるなんてことを……したんですか?僕が……何か悪いことをしたのなら……謝ります」 「そ……それは……貴がノスティアード殿と二人きりで話すというから……気になっただけだ。こちの勝手な興味ゆえ、謝る必要などない……いや、むしろ……こちが失礼なことをした……そ、その……済まなかった」 しどろもどろになりながらも、ノスティアードの従者は深々と頭を下げる。お辞儀した際に窓の外から差し込む光に照らされ、真っ赤な髪の毛が直一層のこと目立ったためルベリアは思わず魅入ってしまう。 「だが、ア・スティルの王子よ……貴は何故に、兄と父とがそのような関係になっているとはいえ気に病むのか?貴には……別段、気にすることなどないのではないか?」 「……なっ…………!?」 その、あまりにも無神経なキルーガの言いっぷりに少しでも「このウ・リガ人は本当は良い人なのではないか」と思いかけていたのが一気に吹き飛んでしまった。 ちらっ――と横を見てみると、キルーガの主人でもあるノスティアードは従者の放った言葉に対して呆れたように肩をすくめている。 そのノスティアードの様を見てかは分からないが、今までに抱いたこともないような途徹もない《怒り》が込み上げてきた。 今まで幾度となく抱いてきて受け入れるしかなかった果てしない《悲しみ》ではなく、抑えきれない程の激しい《怒り》だ。 「な……っ____何も知らない……しかも、ウ・リガから来た貴方なんかにそんなこと言われたくない……貴方なんか、無神経な貴方なんか……大嫌いだ……っ……!!」 側に寄り添ってくれるナンダや、ノスティアードの【聖鳥】ルシュがルベリアの怒りの剣幕に驚き、退いてしまう程に大きな声でキルーガへと言い放ってしまったルベリアは自分の意思とは関係なく込み上げてきて溢れそうになる涙を必死で堪えながら脱兎の如く部屋から出て行ってしまうのだった。

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