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第17話

* 「あ、ルベリア様…………」 キャンベル伯爵と別れてから、中庭の噴水を後にしたルベリアはキルーガには出会いませんようにと願いながら廊下を歩いていた。 イ・ピルマの王子であるノスティアードの従者なのだから、いずれ再び対面しなければならないことは充分に理解しきってはいたけれども、それでも今すぐには会いたくなかったのだ。 まるで侵入者の如く、注意を払いながら廊下を歩いていたところで不意に背後から話しかけられてビクッと体を震わせてから、ゆっくりと振り向いた。 そこには、両腕に抱えきれないほどの大量な寝具を持っているジルガが立っていた。自分に向けてかけられた声の正体がジルガだと分かったルベリアはホッと胸を撫で下ろした。 てっきり、声の主がキルーガだと思ってしまったせいだ。 しかしながら、よくよく考えてみれば幾らキルーガとジルガの声質が似ているからとはいえ彼の訳がないじゃないかと思い直した。 そもそも、キルーガは自分を《ルベリア様》などと名前で呼ばない。《ア・スティルの王子》としか呼んでいなかったではないか。 「な、何…………ジルガ?僕に何か用?」 「あ、ええっと……セレドナ様がルベリア様を呼んでいらっしゃいまして……その、お部屋まで来て欲しいとのことですよ」 心臓がドクンッと勢いよく飛びはねた。 (セレドナ兄様が…………いったい……何のご用で____) と、あれこれと考えている内にひとつの心当たりがルベリアの頭の中に浮かんだ。 「分かったよ…………ありがとう、ジルガ__ところで、今日は確か非番の日じゃなかったっけ?どうして、こんなに大量な寝具を持って廊下を歩いてたの?」 「そ、それは……その____」 ジルガは、とても悲しげな表情を浮かべながら口をつぐんでしまう。 少ししてから、彼がその理由を囁きかけて教えてくれた。 『従者仲間から……押し付けられてしまったのです……このことは、内緒にしておいてくれますか?』 どうやら、お人好しなジルガは昔から従者に良いように扱われているらしい。そのことを知った僕はジルガが哀れに思い、「寝具を洗濯室まで運ぶのを手伝うよ」と彼へ言う。 しかしながら「大丈夫です!!ルベリア様にこんな雑用をさせるわけにはいきません」と慌てふためきながら断り続けたジルガを何とか説得させてから共に洗濯室へと向かって歩いて行くのだった。 * 洗濯室前に着くなり、僕とジルガはこんな会話を交わした。 「ルベリア様……その白い花の髪飾り――とても、お綺麗ですね。もしや、どなたかから贈られた物ですか?あ、分かりました……婚約者のノスティアード様から贈られた物ですね?」 「えっ……そう……そうなんだよ__ノスティアード様から僕の誕生日プレゼント兼婚姻祝いとして贈られた物なんだ……似合うかな?」 「ええ、とてもお似合いですよ。恐れながら、少しだけ触れてみても宜しいですか?私の生まれ故郷では、こんな高価なもの触れることはおろか見たことすらありませんので……」 僕はひとつだけ、そして今まで過ごしてきた中で、初めてジルガに嘘をついた。本当はキャンベル伯爵から貰った物だと言えば良かったのだけれど、何となく気恥ずかしくて咄嗟に婚約者であるノスティアードから貰ったものだと言ってしまったのだ。 そんな僕の些細な嘘のことなど気付く素振りさえ見せず、微笑ましげに笑みを浮かべながらジルガは白いワレコウカの花飾りに触れた。 「…………うわっ……!?」 ルベリアは一瞬、何が起きたのか分からなかった。 しかしながら、すぐにワレコウカの髪飾りに触れた方のジルガの手を見てみると指先が僅かながらに赤くなっていることに気付いた。 「ど、どうしたの……ジルガ……!?」 「い、いえ……この髪飾りに触れた瞬間、バチッと刺激が走ったような気がしたのですけど……多分、私の気のせいですね。それよりも、ルベリア様……わざわざ寝具をここまで運んで頂いて有難うございました」 その後、ジルガと別れるとルベリアはセレドナが待っているであろう部屋へと重い足取りで歩いて行くのだった。 *

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