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第20話

* 「おはよう、ルー君……絶好の買い物日和だよ。澄みきった青空に、爽やかな風――ほらほら、早くルー君も支度しなよ?ああ、そうだ……王都での買い物の件については、君の父上や母上にはジルガに事情を話して貰ったから大丈夫……ジルガも笑顔で僕らのデートを見送ってくれていたよ。ただ、ルリアナが一緒に行けないのが残念だけれどね。でも、先に玉座の間に行ってご両親に謝ってからの方がいいかもね…………」 「ん…………っ____」 ふいに目を覚ました時には既に、白いポンチョに茶色のズボンと黒の革靴である《チャルカ》というイ・ピルマの伝統衣装に身を包んだノスティアードの愉快げな顔が間近にあった。 さすがに、城の外に広がる王都へと出かけるに当たって国民の目に触れるため、イ・ピルマの正装に着替えた方がいいとノスティアードは判断したらしい。 普段は飄々とした素振りで、尚且つ割と自由な印象があるノスティアードだが、そういう所は一国の王子としてしっかりしている。 そして、どうやら僕はまた朝食会に参加し損ねたらしい。言葉に出さずとも、目の前にいる婚約者が『相変わらずお寝坊さんだな、ルー君は……』と言いたげな顔つきをしている。 そのせいで、自分の失態に気付いた僕は慌てながら支度を整えてから、父と母がいるであろう《玉座の間》へとノスティアードと、その後ろに控えていて、まるで人形のように一言も話さない従者のキルーガと共に向かって行くのだった。 * (あ、いけない……僕としたことが急いで支度をしたせいで……金貨袋を忘れてきてしまった__さすがに取りに戻らなくては……) 父と母に朝食会に出られなかったことを謝罪した(案の定二人共呆れかえっていた)後に、ルベリアは自室に忘れ物があることに気付いた。 「キュルゥゥ……キュル……ッ……」 その途端に、ルベリア達の後ろを付いていたナンダが戸惑いの表情を浮かべた主人の心情を察知して『代わりに部屋まで行って取ってくる』といわんばかりに此方を覗き込んできたの。 しかしながら、さすがに自分の不注意かつ寝坊したせいで慌ててしまったという失態のせいでナンダに迷惑をかけるのは悪いと思ったため、ノスティアードとキルーガに事情を説明すると一度部屋へと戻ることにしたのだった。 その際、部屋に向かう途中の廊下でルベリアは気になる光景を目の当たりにした。 (あ、ソナとジルガだ……二人とも確か今日は非番の日じゃない筈だから、お仕事中かな――でも、それにしては二人の様子が何だか変なような____) 少し離れた場所に立っているせいで、ソナとジルガの明確なやり取りなど聞こえはしない。 けれど、どことなくソナがジルガに対して怒りながら何事かを話しているのは何となくとはいえ分かった。 おそらくは、何か業務に関することで僅かながら先輩に当たるソナからジルガが注意を受けているのだろう。 それならば、いくら仲がいい二人とはいえ多少ギクシャクしてしまうのは仕方ないかと思ったのだ。 しかしながら、ルベリアが何となく変だなと感じたのはソナに対してジルガが真剣に「ごめんなさい」と謝る訳でも、ましてや昔から割と仲がいい従者同士の筈なのに軽くふざけたように「ごめん」と謝る訳でもなく無表情かつ無言でソナをジッと見つめていることだった。 凄く気になってしまったため、ルベリアは二人に何があったのか聞くために彼らの方へと近付こうとしたことけれど、それは意外な人物によって阻まれてしまうこととなる。 「おい、お前達……いったい何をしているんだ!?セレドナ兄さんの具合がお悪いから、水と体を拭く布を持って行けと命じただろう?まったく……ジルガ――俺はお前に命じたんだぞ。いったい、何分待ったと思っているんだ!?」 「も、申し訳ありません……っ____ルリアナ様。これから、至急セレドナ様のお部屋に水桶と布をお持ち致します……ジルガ、お前も謝るんだ……っ……!!」 「ルリアナ様…………誠に、申し訳ございませんでした……セレドナ様のお具合は如何でしょう?」 ソナが謝った後に、ジルガも続けて謝ったのだが、ルリアナはそれには答えずに無言のままギロリと睨み付けたため沈黙が辺りを支配する。 (ああ、なるほど……ジルガがルリアナ兄さんの命じたことに手こずってしまっていたから――だから、ソナが怒ってたんだ……) 「いいから…………早くしろ……っ……」 それだけを言い放つと不機嫌さを露にしながらルリアナは、その場からそそくさと去って行ってしまった。 しかしながら、結局は二人のやり取りを確認することは出来なかった。 その後、唐突に現れ、なおかつ鬼の形相をしていた二番目の兄のルリアナによって二人に何をしているのか聞くのを阻まれてしまったせいで、仕方なくルベリアはカーテンの隅に隠れたまま彼らが撤収するのを待った。 それから自分の部屋に向かって急いで駆けていき机の上に置かれっぱなしになっていた金貨袋を掴んで懐に仕舞う。 そして、ようやく城門で待っているであろうノスティアードとキルーガの元へと息を切らしながら駆けて行くのだった。 *

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