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第33話
「~~♪~♪~~♪♪♪~~」
父のペニスがルベリアの後ろの穴に挿入しようと試みる際に放たれるヌチュッという淫靡なる水音しか聞こえない部屋の中に、置時計のオルゴールの軽やかな音が響き始める。
この音が十二回響き終わる内に父が完全にルベリアの後ろ穴にペニスを挿入し終えて内部に白濁の種子を放てば【裏切り者のジルガ】の思惑通りに事が進んでしまう、と危惧したルベリアはどうにかしてこのピンチから逃れるべく身を退けようとよじって些細な抵抗を試みた。
しかし、それをジルガとその聖鳥のジュマが黙って見ているわけもなく一斉にルベリアの体を抑え込んできた。そのせいで、とうとう父のペニスはルベリアの後ろ穴の途中まで挿入されてしまい緩やかだとはいえ律動が始まってしまう。
(これでは……ジルガの思惑通りになるのも時間の問題ではないか……っ____何とかこの魔の手から逃れるすべはないのか……そうだ、ナンダッ……ナンダは……)
と、今にきて己の聖鳥の存在が頭の中によぎり心の中だけとはいえ必死に呼び慣れた名前を呼び続ける。
すると____、
ガシャァァンッ…………と、窓の外から盛大にガラスが割れる音が響き渡った。
そして、それとほぼ同じタイミングで机に置かれていた置時計が地面に落ちて砕け散る。
魔の時を知らせるオルゴールの音が床に落ちたことが引き金となり鳴り終えたのを驚愕の表情を浮かべつつ見届けていたルベリアの目に次に映り込んできた光景は信じ難いものだった。
月明かりを背にし、聖鳥ナンダを自由自在に操るルリアナが、窓の外から勇ましく窓ガラスへと飛びかかる姿だ。その顔は、凄まじい怒りに満ち溢れている。
「私の手を取れ……ボーッとするんじゃない……早く、手を取れ……これは兄である俺からの命令でもあり……願いだ……っ……!!」
窓ガラスの雨が降り注ぐ中で、久方ぶりの自由を取り戻したルベリアは此方に差し出された兄ルリアナの手を咄嗟に取った。
久方ぶりに、ルベリアはもう一人の兄であるルリアナと手を繋いだ。いつもであれば、絶対に有り得ないと思っていた大嫌いだった筈の兄の手は以前までとは違って決して自分を離そうとはせず、そのまま強い力で彼の【聖鳥・ダレダ】の背へと自分を乗せたのだ。
「ル、ルリ……アナ……兄さん……セレドナ兄様が……っ……い、い……命を……っ____それに……それに、キャンベル伯爵や……兵士や……ノ、ノス……ティ……アード様……まで……っ……」
涙で濡れたせいでぼやけるルリアナの顔を見つめながら、ルベリアはついさっきあった惨劇を吐露しようとした。しかしながら、もはやパニック状態となり正常な精神とはいえないルベリアの言葉はつっかえて上手く言葉にならない。
「大丈夫、大丈夫だ……セレドナのことはわかっている……その他の者のことも……。それに、ノスティアードは大分混乱しているが、命までは失っていない。あの裏切り者らから逃げきった後に回復共鳴をかけてもらう……とにかく、こうなった以上――もうここにはいられない。忌々しいが、ここは……いや、ア・スティル全体が既に裏切り者のジルガの巣窟と化している」
暗い夜空を、ルリアナの聖鳥ダレダは背に主人とルベリアを乗せて飛んでいく。ルベリアは裸だったが、それを暖めるようにダレダは彼の凍えと恐怖に必死で耐える小さな体を包み込んでくれる。
ふと、視線を移してみると同じようにダレダの暖かい羽毛に包み込まれながら寝息をたてているノスティアードの姿を見て、ルベリアはホッと安堵するのだった。
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