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第35話

* 「ルリアナ兄さん……ここが安全な場所っていう洞窟なの?暗くてよく見えないし……ルリアナ兄さんを疑うわけじゃないけど、ここは本当に安全なの?ジルガの様子は何だか変だった……それに、彼の聖鳥だって言ってたジュマっていう恐ろしい存在もいるし、彼らがここまで追い掛けてきてもおかしくないよ」 「説明は後でするから我慢しろ。とりあえず、早く中に入れ」 ルリアナの聖鳥であるダレダの羽毛に抱かれ、未だに目を瞑りながら夢の世界にいるノスティアードを心配そうに見つめながらルベリアは少し離れた場所にいる兄へと尋ねる。 炎が揺らめく松明を手にしながら、ルリアナは先に洞窟内へと足を踏み入れようとしていたのだ。おそらく、とりあえずは安全だという洞窟に初めて来たルベリアを気遣ってくれているらしい。 何故ならば、ダレダから離れて薄い生地の布しか纏っていないルベリアが後から続いて恐る恐る洞窟内へと入ると、そこに元からあったであろう簡易な布団やら缶詰めといった食料やらを手際よく準備していてくれたからだ。 しかしながら、ルベリアが不安そうな表情を浮かべつつ洞窟内が安全なのかという事を尋ねながら背を向けて準備しているルリアナへと近寄ると不意に此方へと振り向いた。 しかし、すぐにまたルベリアから視線を外してしまったルリアナは木材で作られたタンスらしき物から何かをささっと取り出すと少しばかり乱暴ながらもルベリアへそれを投げてきた。 「その姿は___目に毒だ。それを着てみろ……多分だが、サイズはピッタリの筈だ」 「こ、この服……というか、それだけじゃなくて手作りのタンスとか、缶詰めとか……どうしてこんなア・スティルの外れにある洞窟の中にあるの?」 どことなく素っ気ないルリアナが渡してきたのは、一枚の服だった。 ざっと見たところ、確かにルリアナの言うとおりサイズはピッタリに思える。 ルベリアはジルガに操られた父に襲われている最中に彼によって救出されたためダレダの分厚く覆われていた暖かな羽毛から出てしまうと夜風が身に染みて小刻みに震えてしまうくらいには冷気にさらされてしまっていたため、この洞窟内にサイズがピッタリと合うような洋服が何故あるのか疑問に思った反面有り難くも感じた。 「あ、ありがとう……ルリアナ兄さん……とっても温かいよ」 「こんなことも有ろうかと取っておいて良かった……後でノスティアードにも礼を言うのを忘れるなよ。それは、今も眠っている……あいつがちょうどお前くらいの年齢の時に着てたものだ」 それは、ルベリアにとって初耳だった。 それに、今は亡きセレドナからもルリアナとノスティアードが二人でこの洞窟に来ていたことなど聞いた記憶がない。 いくら兄であるルリアナを避けてきた時期があったとはいえ、元々仲が悪いという訳ではなかったため彼とノスティアードが幼い時から二人きりで過ごしてきた思い出があるという事実がルベリアにとってはとても意外なことだった。 そのせいで、てきぱきと手際よく地面に落ちている木を一ヵ所に集めて松明の火を灯して暖をとるために必要な準備をし終えたルリアナに対して驚きの表情を向けてしまう。 「ルリアナ兄さんは……昔からノスティアード様と二人きりでこの洞窟でお会いになっていたの?いったい、どうして……っ____」 「此所は俺達二人の秘密の場所……いわば秘密基地だったからだ。いや、そんな回りくどい言い方は気持ちが悪いな。お前との絆を深め直すためにも、ハッキリと言おう。今はまだお前の婚約者であるノスティアードと俺は……昔からこの洞窟で王宮の皆の存在から隠れて愛を誓い合う仲だった……これで説明は充分か?」 「えっ…………!?」 と、ろくな反応も出来ないくらいには動揺し戸惑いの声をあげてしまうルベリアを尻目にルリアナは至極冷静なまま未だに眠っているノスティアードの体を暖をとらせるために先程木々を集めて松明の炎を灯らせた場所へ、そっと横たわらせる。 まるでそのことを理解しているとでもいわんばかりに、ちょうどその時に閉じられたままだったノスティアードの目が開いたのだった。 しかしながら、目を覚ましてからキョロキョロと辺りを見回したノスティアードの口から発せられた言葉は喜びに包まれるルベリアとルリアナを驚愕させるには充分過ぎる意外な言葉だった。 「ここは何処……ですか?それに、あなた方は……誰?」 体を小刻みに震わせながら、明らかに怯えた表情で此方を伺い――なおかつ警戒心をあらわにして後退するノスティアードは幼い頃から今まで親しく過ごしてきた彼とはまるで別人になってしまったようだった。

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