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第38話
全身が赤黒い炎に包まれ、尚且つ首にかけられている木笛をキルーガが吹いた途端に思わず目を両手で覆ってしまうほどに眩い黄金の光を放つ鳥が空から降りてきた。
それだけではない。
名前以外のほとんどの記憶を失って混乱しきっていて気絶してしまったノスティアードへ危害を加えようとしているソナによる怒りに任せた衝動的な行動を止めるべく、キルーガが彼の眼前に鋭い光の矢を放ってきたのだ。
「いい加減にしろ。もっと冷静になった方がいい。今、このような場所で貴がノスティアード様に悪意を持ち、ましてや我らといがみ合っても……何の得もないだろう。それに、夜空に輝く星もそれを望んでなどいない。それより、先に彼らを介抱すべきなのではないか」
「……っ____わ、分かっている。そんなことは分かりきっていた……だが、ルリアナ様に危害を加えられるならと……いや、おれも混乱し冷静さを失っているようだ。少し、頭を冷やしてくる」
そう言って、王宮で見せていた時とは別の【ルリアナに関して怒りっぽい面もある顔】を見せたソナはその場からフラリと離れて行った。
もちろん、彼の身が心配だったけれどルベリアは、もしも今――自分がソナの立ち場だったのであればどうしてほしいのかということを考え悩んだ末に洞窟内で気を失ってしまっているルリアナとノスティアードの看病をキルーガと一緒にする道を選んだのだった。
それに、ルベリアにはこれから先の旅を共にする上で、どうしても聞いておかなければいけないことがあるのだ。
キルーガのことが未だに苦手だとか、とてつもなく聞き辛い内容だとか――そんな思いを抱いている場合じゃない。
それに、それとは別にこれから進むべき道程のことでも尋ねたいことがある。
キルーガへ話しかけるには、ほんの僅かな勇気がいるけれども 、このまま立ち尽くしていても意味がないと思い直す。
そして、深呼吸をしてから、かき集めた木の枝を燃料としパチパチと音を立てている炎を頼りにしながら地面に広げてある地図と睨めっこしているキルーガに声をかけるのだった。
*
「あの、これから……どういう道のりで……イ・ピルマまで行けばいいと思う?いや、思い……ますか?」
「ア・スティルの第三王子、お前だったら……その答えをどう導く?それと、敬語は止めてくれないか……相変わらず、お前には自分の考えがないのだな。これでは、兄上であるルリアナ様が苦悩されるのも、分かる気がするぞ」
キルーガの態度を見て、ルベリアは何で彼のことが苦手なのかということを理解した。
キルーガは、容姿こそ似ていないものの自分に対する考え方が兄のルリアナにとても似ているのだ。
けれど、似ているだけであって――それでもルリアナとは違うような気がすると感じたのは、ただ此方に対して《考えを持ってない》と低い口調で素っ気なく言い放つだけでなく、ルべリア自身で考えてみろと言ったことだ。
そんな風に言われてしまうとは夢にも思わなかったルベリアは戸惑いながらも、彼と同じように地図と睨めっこしてみる。
そうしなければ、キルーガに一番聞かなければならないであろうことを、心の中に永遠に封じ込めてしまうのではないかという情けない不安を覚えたからだ。
それでも、厳しい言葉を言っていても一応は僕の考えを聞こうとしてくれているのだから、それを無下に跳ね返してしまうのは何とも罰が悪い。
「えっと……安全面に考慮してイ・ピルマに行くためには、まずは《アルマナの水場》、次に《イサの庭園》――最後に《ウバルシアの住みか》を訪れる……で、いいのかな?僕は、このコースで行くのが」
「何だ……きちんと自分の頭で考えて意見を言えるじゃないか。今まで王宮内にいた頃のお前とは全然違う……少なくとも初めて会った時とは別人のようだ。だが、まだ足りないな。いくら安全面を考慮したコースとはいえ途中で危険がないとも限らない……つまり、戦うためと身を守るための武器やら防具やらが必要だ。一番最初に、この《モアルゴアの武具市場》に行くとしよう」
ルベリアは、とんっ――と開いた地図の上に人差し指を置きつつ初めて出会った頃の冷たく素っ気ない笑みではなく、まるで子供のような――それでいて太陽のようなまぶしい笑みを浮かべながら言ってきたキルーガを照れくさそうに見つめた後に中々聞けずにいた《一番聞きたいこと》を問いかけるべく口を開くのだった。
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