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第39話

「あ、あの……何で、聖鳥を従えているの?あなたは、ノスティアード様に仕える従者であり、ウ・リガ出身の者だとは前々から話に聞いてはいた――でも、聖鳥を従わせているなんて話は今まで聞いたことない」 まるで、踊りを舞うがごとく激しく揺らめき続ける炎を真っ直ぐ見つめながら隣に座るキルーガへと尋ねたのは、単に彼の目を見つめつつ尋ねる勇気は持ち合わせていなかったせいだ。 【聖鳥】を持っている者に、この質問を投げかけることは、《出自》ついて詳しく尋ねることに繋がる。 ましてや、ウ・リガの生まれでありながら捉えようによっては敵国ともいえるイ・ピルマに仕えているキルーガの場合は深く突っ込まれたくない事情があるに違いないのだ。 「今のウ・リガの王妃はミルという男で今の王の後妻だ。そして、俺の母はある事情で命を落とすまでは先妻だった。今のウ・リガの王子であるスクジは自分にとって邪魔者となり、なおかつ反逆者になりかねない俺を国から追い出した。母と親交の深かったイ・ピルマの王族――特にノスティアード様が哀れに思ってくれたおかげで……命からがらウ・リガから逃亡してきた」 「…………」 ついさっきまで気丈に振る舞っていたけれど、今は揺らめく炎を真っ直ぐに見据えながら目を細めているキルーガに対して何か気の効いた一言でも言った方がいいかもしれないと口を開きかけたルベリアだったが、すぐに思いとどまった。 その理由はとても単純なもので、どことなく思いつめたような表情を浮かべている彼に対して何と声をかけるべきなのか分からなかったせいだ。 何だかんだ、《暖かい家族》がいるルベリアには――どう考えても悲劇的な運命を辿ってきたキルーガの気持ちは分かりようがないのだ。 「ごめん……なさい」 「何故……お前が謝る?ア・スティルの王族であるお前は何も悪くはない。それにこの過去があるおかげでノスティアード様の恩恵を受けられたのだ。たとえ、今がこのような状況だとはいえ――お前達とも……親交を深めることができた……それも全て星の導きだ……ここにいるばかりでは息がつまるだろう。共に、星を見に行かないか?」 不思議なことに、ついさっきまでは苦手だと思っていたキルーガに対して今まで王宮で暮らしていた時には全くといっていいほど感じなかった何ともいえない思いを抱いた。 そのため、「二人で共に星を見に行ってみないか?」という――これまでだったら即座に断るであろう申し出を受け入れた後に洞窟内でスヤスヤと眠るノスティアードとルリアナを再び戻ってきたソナに任せて洞窟の外部に広がる草原に向かって行くのだった。 * 洞窟を出るなり、ほぼ同時に二人して、ふっ――と夜空を見上げると黒い絵の具を塗ったくったような広大な夜空には宝石のように煌めく星々が散らばっている。 そのうちの一つで、特に強烈な光を放つ星が、流れていくのをルベリアは見た。 「星は多くを語ってくれる……光の強度や位置の違いによって、これからの未来がある程度は分かる。だが、今の王や王子――それに現王妃を含めて俺の母以外の者は皆が皆口を揃えてウ・リガにはそんな力を持つ者はいらないと言った。要は、俺はウ・リガにとって役立たずな存在だったということだ――。何だか、少し前までのお前と似たような言葉を言っているな」 今まではルリアナのように尊大な態度を取っていたキルーガが、ここにきて初めて弱気さをあらわにした。それを見て、ブンブンと首を横に振りながらルベリアは真っ直ぐに見据えて必死でこう言う。 「違う、それは違う……っ____星の導きを感じられるなんて、とても凄いことだよ。むしろ、力だけで周りを支配できると思い込んでるウ・リガの思想自体が間違ってる。ジルガも、今の王族達も……間違ってるよ。あなたが、ううん……キルーガが……今、ここにいてくれて……良かった」 そう言い終えるなり、キルーガの手がルベリアの頬にソッと触れてビクッと小刻みに体を震わせた。 けれど、それは嫌悪感や不快感といったものからくる反応ではなく単純に彼の手が大きかったことと緊張からくる自然な反応だった。 「お前の目も……夜空に浮かぶ星のように力強く……とても美しいな」 「……っ____」 と、またひとつ星が流れた時のことだ。 「おいっ…………貴様は何をしているんだ!?俺の弟から、離れろ!!」 予想もしなかった乱入者の出現――。 鬼のように険しい顔をしたルリアナが背後から物凄く不機嫌な様子をあらわにしつつ迫ってきて、すぐ近くまで接近していたキルーガからルベリアを引き剥がしたため二人きりの安らぎの一時は唐突に終わりを告げたのだった。

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