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第44話

* 色々な事件が立て続けに起きて肉体的にも精神的にも疲弊しきっていたルリアナがパチッと目を覚ました時、真っ先に飛び込んできた光景はキルーガと共に慣れない料理に励む弟――ルベリアの姿だ。 ア・スティル以外の異国を何ヵ所か巡ったことのある自分と違って、かつては王宮以外の世界を知らなかったルベリアが今はよりにもよって野蛮だとか恐ろしい国だとか噂されている【ウ・リガ】出身のキルーガに対して信頼感を抱きつつあり、しかも自ら積極的にやったことのない料理を学ぼうとする弟――いや、正確にいえば甥っ子ともいえるルベリアを遠くから見ていると無意識の内に目頭が熱くなった。 あんなに理不尽に、かつ残酷に命を奪われたセレドナもきっと天から見ている筈だと思うと、かつての兄との思い出が止めどなく溢れてくる。 そういえば、両親がずっと反対し続けていたノスティアードとの恋も兄であるセレドナは反対することなく素直に受け入れてくれていたのだということをフッと思い出す。 ノスティアードの出生に関する重大な秘密を打ち合けた時も、「そんなことは大して重要じゃない」と十数年しか生きてこなかった子供にとっては余りにも重圧すぎる事実に押しつぶされそうになっていた自分の頭を優しく撫でつつ太陽のように眩しい笑顔で励ましてくれた。 しかし、かつての思い出に浸っている場合じゃない。 王宮内に留まらず、一部の国民からも世間知らずと呼ばれていた弟がようやく自立しようと努力しているのだから尚更のことだ。 兄である自分が、いくら日々の疲れが溜まっているとはいえ悠長に寝ている場合じゃないのだ。 のっそりと起きてから、ルリアナは簡易な寝具をテキパキとした手つきで片付けると未だに料理に奮闘している二人の元へと駆け寄っていくのだった。 * 「あ、ルリアナ兄さん……おはよう。あ、あのさ……疲れているかもと思って、これ……作ったんだけど……食べてみて?」 心身共に疲れきったであろうルリアナがのっそりと起きてきて、此方へと駆け寄ってきたことに気付いたルベリアはキルーガに手伝ってもらいながら仕上げた料理を差し出してみた。 最初は苦笑いを浮かべていたルリアナだったが、最終的にはそれを受け取ってくれておそるおそるとはいえ口に運んでくれたことを目にしたためホッと安堵する。 ____が、その直後に凄まじい形相で睨み付けられたため、僕はたじろいでしまった。 「ルベリア……お前はキルーガに手伝ってもらっても――簡単な料理すらマトモに出来ないのか?まあ、いい……これを食べ終わったら、俺が代わりに作ってやる……少し待ってろ。これから、ここを離れて新しい場所に向かうには体力が必要らしいからな」 キルーガが目を離した隙に、ルベリアは間違った味付けをしてしまったらしい。 本来の料理とはかけはなれた味になってしまった料理を何とか胃に収めたルリアナは嫌悪感をあらわにしつつも王宮内にいた頃よりかは僅かに優しい口調で戸惑う弟へと言うのだった。 料理の具材である動物をそこら辺から調達してくれたソナは、そんな三人のやり取りをジッと見つめるばかりだった。 そうして、また____夜が更けていく。

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