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第45話
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「次の心当たりって……まさか、ここなの?急に僕らの前に出現したとはいえ、パッと見ただけでは、ただの森にしか見えないけど____」
あれから、準備をし終えたルベリア一行は薄暗くじめじめした洞窟を抜けると、そのまま東へ向かって歩き続けた。
すると、暫くしてから一行の前に森が出現した。
ここに来る前からずっと存在していたというのとは訳が違って、まるでルベリア一行が来訪するのを事前に知っていたといわんばかりに唐突に現れたのだ。
「そういえば、王宮にいた頃に噂を耳にしたことがある。少し離れた東にいるダ・クエルフ族という種族に属する輩は――人々を惑わす魔法を使うという。恐らく、これはダ・クエルフ族の仕業だ。何でも、ダ・クエルフ族は……人間によって作られたキメラという属種の亜種であり、体躯は人間と同じくらいの大きさだか、皆が皆――赤い瞳を持ち、鋭い爪と牙を持つおぞましき見た目とのことだ」
ソナが獲物を狙う獣の如く厳しい目付きで、辺りを見渡しながら言う。
その声のトーンは、かつて王宮内にてルベリアやルリアナに対して接した時とは真逆で別人なのではないかと錯覚するくらいに低いものだ。
「我々を巣に誘き寄せ、むしゃむしゃと食らうに違いない。次期王候補であるルリアナ様を危険に曝す訳にはいかない……先程の洞窟に戻るか、もしくはすぐにでもここを離れるべきだ」
ソナの提案を聞いたルベリアは咄嗟に意見を言おうと口を開きかけたが、それを音にして伝えるのは思い留まった。
ソナのキルーガに対するあからさまな嫌悪感に恐れを成しただけじゃない。ソナの『ルリアナは次期王候補だから危険に曝すな』という言葉は決して間違いではないと頭の中で分かりきっていたからだ。
「ソナの言う通りに洞窟に戻っても……危険がないとは限らない。それに、この現状から逃げてばかりいても――前には進めない。そんな回りくどいこをして成功したとしても新たな成長には繋がらないのだ。早く行かなければ、日が沈む……ソナ、この無力な第一王子の言葉を受け入れてくれ____頼む」
そうこうしているうちに、弟が困惑しているのを理解したルリアナが思わぬ行動に出た。
今まで決して誰にも頭を下げたことのないプライドが高いルリアナが、元使用人という低い立場に位置するソナへと頭を下げながら懇願してきたのだ。
「____っ……な、何故……そうまでして得たいの知れない場所へと進もうとするのです?たとえ、このまま前に進んでも安全とは限らないというのに……っ……!!」
「単なる私の直感だが……あのまま洞窟にいては――先に進むよりも遥かに危険だと感じたのだ。ノ……いや、ルベリアを危険に曝す訳にはいかない。だから、この通り……あの得たいが知れないとはいえ洞窟よりは安全な森へ進んでくれ――頼む」
頭を下げるだけでは足りないと判断したためか、何とルリアナは両膝をつき地に額を擦りつけつつ必死でソナを説得しようと努力した。
納得しないといわんばかりに眉をひそめながらも、それ以降はソナが反論の言葉を訴えることはなかった。
その後、とりあえず進路を決めた一行は一度は通り過ぎた洞窟ではなく、唐突に出現した得たいの知れない森へ向かってひたすら真っ直ぐ歩いて行くのだった。
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