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第46話

* (あれは、いったい何なんだろう____) 霧に包まれ、王宮内では見ることさえなかった神秘的な森の中を歩く一行の中で最初に異変に気付いたのはルベリアだった。 日の光など差し込むことなく、辺り一面がいつの間にか真っ白な霧に覆われて尚且つ足を踏み入れたばかりの時は僅かに暖かさがあったとはいえ、今はどちらかといえばひんやりとしている冬の季節の時みたいな不思議な森の中を歩き続けているというのに、一行から少し離れている一ヶ所の地面がキラキラと青白く光り輝いているのだ。 それは、不思議なことにルベリアが瞬きをする度に色を変えている。 最初は、青白く――次は淡い緑色といった具合にどんどんと色を変えているのだ。 世間知らずの王子であるルベリアの興味を引くために光らせ続けているのだ――といわんばかりに、その様子が変わる気配がない。 「あ、あのさ……皆。あのキラキラ光っているのって……何だと思う?」 好奇心をくすぐられ、すぐにでも駆け寄りたい衝動にかられたもののグッと堪えて前へと進もうとしている皆へと少し遠慮がちに声をかけた。 しかし、ルベリアが光のある方向を示してみても皆は呆然とするばかり。 その直後、ほぼ同じタイミングで「光なんて見えない」とキルーガ達から言われて面くらってしまったルベリアは再び光を放っていた場所へと視線を戻してみることにした。 「____っ…………!?」 先程までは瞬きする度に色が変わっていた不思議な光が煌めいていた場所に、意外な人物が立っている。 セレドナ____正確にいえば、命を奪われた時と同じ服装をして、穏やかな笑みを浮かべている状態のセレドナがルベリアを誘うようにして手招きしながら立っているのだ。 今までの、王宮でしか過ごしたことがなく周りから世話をされてばかりだった世間知らずなままのルベリアであったならば何の疑問も抱かずに速攻で不思議な光の方へと駆けていったであろう。 しかし、信頼していた者からの裏切りに会い、こうして仲間達と行動して僅かながらとはいえ成長しかけているルベリアは不思議な光が今は亡きセレドナが自分の目の前にいて手招きしていることに対して不安を抱く。 もちろん、嬉しくないわけではない。 口ち出すもの憚られるような事情があり、命を落としてしまった産みの母という存在とはいえ――たとえ、この世にもういなくなってしまった存在とはいえ、自分を愛してくれた彼に会いたくないわけがない。 その想いを必死に押し殺しながら、ルベリアは近づきかけていた足をピタリと止めた。 (これは、僕らを嵌める罠なのかもしれない。今のあの子なら、そうしてもおかしくない____) ふと、自分を裏切った者の、かつてのはにかんだ笑顔を思い浮かべてルベリアの心は未だに悲しみで押し潰されそうになってしまう。 たが、その直後のこと____。 足元に、何とも言いようのない違和感を抱いたルベリアは今自分に起きていることに対して得たいの知れない恐怖と強烈な不安を覚えつつも慌てて真下へと目線を落とした。 地面に落ちている葉っぱに混じって、大小さまざまな色とりどりのキノコがルベリア足の真下に落ちている。 しかも、それはハート形のサークル状となっていて無意識のうちにルベリアはハート状のサークル内へと跨がり足を踏み入れていたのだ。 ルベリアがそれを自覚した直後、突如として今までサークル状に落ちていた筈の葉っぱが真上へと巻き上がっていき、慌てふためくルベリアの姿を隠していく。 不思議なのは、強い風など吹いていないにも関わらず葉っぱが真上へと巻き上がっていることだ。 それに、他にも異様なことはある。 ルベリアの体は徐々に地中へと吸い込まれるようにして、落ちていき――やがて、呆気にとられ声すら碌に出せないキルーガ達の前から完全に見えなくなってしまうのだった。 *

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