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第48話
すると、それから少しして先程までの凄まじい態度が嘘かのように落ち着きを取り戻した男は罰が悪そうにルベリアを一瞥し、更に予期せぬことに頭を垂れたのだ。
「非礼を詫びる……貴様がここに来たのは――故意ではなく、コヤツの悪戯のせいだろう。コヤツは《サミィ》という名で貴様らニンゲンが奇異の目を向けている《ダ・クエルフ族の最後の生き残り》だ。訳あってワシが保護している…… というよりも、保護せざるを得ないのだ」
「それは、どうしてですか――と聞きたい所ですが、先に名を名乗るのが礼儀です。僕の名前はルベリアといいます。ア・スティルの第二王子という身分であり、本来ならばこのチスカという場所に踏み込む理由などありません。ですが、訳あってここに決ました――僕らはイ・ピルマの王宮に行くために旅をしているのです」
そう言った後、真っ先にルベリアはア・スティルが乗っ取られかけているという危機に陥っていることや、《イ・ピルマ》に行かなければいけない理由などを神妙な面持ちで説明した。
だが、自分を裏切ったジルガのことや記憶を失くしてしまったノスティアードのことなど――そういった複雑でありデリケートなことは言葉を濁しながら、なるべく簡潔に今に至るまでの経緯をうまいこと説明するように努めた。
ア・スティルが乗っ取られた一連の事件において無関係な者は、出来る限り巻き込みたくなかったからだ。
「ワシの名はジルスターチという。貴様らヒト族から隠れながら暮らしている――いわゆる貴様らが言うところのドワーフというもんだ。それよりも、今……貴様は聞き捨てならないことを言っていたな――無意識のうちにかも知れんが、《僕ら》と言っていた。つまり、貴様のようなヒト族が他にもこのチスカの森にいるということか?」
「そ……そうなんです。このチスカの森に来たのは僕だけじゃなくて、仲間であるア・スティルの人間が他にもいて……っ____」
正確に言うならば、キルーガはア・スティルで生まれ落ちた人間ではなく、元々はウ・リガにて生まれ落ちた異国人だ。
しかしながら、それを言うタイミングを逃してしまい黙ってしまった直後にジルスターチと名乗ったドワーフは険しい顔を崩さずにルベリアのちょうど真上の位置を凝視する。
それにつられて、ルベリアも同じように真上を見上げると、見る見るうちに、天井がぐにゃりと歪み始め――やがて、人間の両足がにゅっと出現すると少ししてから、珍しく訳が分からずないといわんばかりにポカンと間抜けな表情を浮かべている兄のルリアナが落下してくるのだった。
落下してきたのは、兄のルリアナだけではない。
その後、続々とソナやノスティアードが落下してきて先程のルベリアと同様に戸惑いをあらわにしつつ、キョロキョロと辺りを見回しながら何とか状況整理をするべく努めているのが分かる。
ただし、ジルガの裏切りのせいで王宮での事件に巻き込まれ、尚且つ彼の恐ろしい術(呪いとでもいうべきか)にかけられてしまったせいで、自らの名前以外の記憶失い――まるで幼子のように退行してしまったノスティアードに至っては状況整理をしようとしているとは言い難く、本当に何も分からないため本能的な好奇心から辺りを見回しているに過ぎないのだろう。
そんな二人が落下してきた後に、一番最後に現れたのはキルーガだ。とはいえ、キルーガに至ってはとても冷静でルリアナ達と違って狼狽の素振りを見せずに無言のままスタスタと此方へ向かって近づいてくるのだった。
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