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第50話
「…………」
サミィがソナに小石をあげてから、少し時間が経っても未だに興味深そうにそれを見つめるルベリアと違って、ソナは完全に興味が失せてしまったのか、氷のように冷たい目で仕方なしに小石へと視線を落としているばかりだ。
ルベリアが興味深さを抱いたのは、何の変哲もなさそうに見えていた小石が一定のリズムで繰り返し白い光を放っているせいなのと、サミィが今まではジルスターチとの会話に加わらずに部外者だといわんばかりに少し離れた場所で傍観するばかりだったソナに対して、なぜ急に光る小石を迷いもなく渡したのかということに対して疑問をもったからだ。
「こんな小石が、いったい……何だっていうんだ?この小石を受け取ることで――今の仲間ごっこをしているグダグダした事態が変わるとでもいうのか?」
「…………?」
少しばかりじれったそうに、そしてどことなく怒りを滲ませたソナの声色を聞いて、ルベリアは驚いて目を丸くしながらソナとサミィの動向を見守る。
ソナは、何かに対して強烈な【怒り】を抱いているのだ。
それがたとえ、目の前でニコニコと微笑みながら白く光り続ける小石を渡そうとしている無邪気なサミィに対するものではないのだと望みを込めて半ば強引に納得していても、客観的にその光景を見守っているルベリアはついつい肝を冷やしてしまう。
「ソナ……いい加減にしろ。その子供は……何も悪くはない。ただ、お前にその石を渡したいだけではないか。お前は、いったい何が気にくわないというのだ?それは、昔からの……お前の悪い癖だ」
「く……っ____!!」
鋭い刃物のように尖った言葉がソナへと向けられて、ルベリアは思わず視線を声がした方へ向ける。
ついさっきまで黙って此方の様子を窺っていたルリアナがすっかり眠ってしまったノスティアードの頭を優しく撫でながら、冷静な様子でソナへと言い放ったのだ。
その光景を目の当たりにしたソナは、無邪気なサミィに対して、もう何を言っても無駄だと悟ったのか悔しげに唇を噛み締めつつも半ば無理やり彼から小石を引ったくるとそれを懐へと仕舞った。
明らかにソナは納得しきっていないという態度で客観的に見ているルベリアには乱暴にも思えたのだが、そんなことなどお構い無しだといわんばかりにサミィは光輝く太陽のような満面の笑みを浮かべながら今度はジルスターチの方へと軽快な足取りで駆け寄っていく。
ソナにとっては何かしら思うところがあるかもしれないけれど、取り敢えずは場の空気が淀んでしまうくらいに険悪な雰囲気は過ぎ去ったと安堵しかけた直後のことだ。
ふと、真上の方から凄まじい爆発音が聞こえてきて、ルベリアは咄嗟にそちらへと目線を上げようとした。
しかし、間に合わなかった。
辺り一面を揺るがす、けたたましい音が聞こえたかと思った瞬間には、今までそこにあった筈の割と平穏な世界は全て壊されてガラガラと崩れ落ちてしまっていたのだ。
ついさっきまで、ソナがサミィに対して険悪な感情をぶつけていたことなどマシだと思ってしまうくらいに、呆気なく《ひとときの休息》の世界は何者かによって邪魔されてしまった。
おそるおそる目を開けた時、ルベリアの目に映った光景――。
それは先程までいた場所から、かなり遠くまで吹き飛ばされて岩下敷きとなり、苦し気な呻き声をあげながら倒れているソナの姿____。
更に、すやすやと子供のように眠るノスティアードを庇うようにして倒れているルリアナの姿____。
それと同じように、無邪気なサミィを庇って力尽き血まみれとなりながら微動だにしないジルスターチの無惨な姿なのだった。
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