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第52話
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突如として僕らに襲いかかってきたのは何者なのか____。また、動機はいったい何なのか。
それに加え、どうしてジルスターチやサミィと出逢ったばかりの時をわざわざ狙って危害を加えたのか____。
今や問いかけようもない謎だけが残り、襲撃者はいつの間にか消え去っていたせいで、茫然と立ち尽くすばかりの僕らだけが惨劇の場に残されてしまう。
「これ以上……うしなわれた楽園にいても……意味がない。ジルスターチ、そう言ってる。さっきから、ずっと____そう言ってる…………」
つい先程までは、今や物言わぬジルスターチの亡骸にすがり付くサミィの泣き声が響いていた。
けれども、その泣き声がピタリと止んだかと思った直後――さっきとは、まるで別人なんじゃないかと思うくらいに満面の笑みを浮かべつつ明るい声色でサミィは僕らへと言ってきた。
「……っ____」
(あんなにも……ジルスターチさんとの急な別れに対して悲しんでいたのに____)
そう思ったものの、僕は特に反論したりはしなかった。
もちろんサミィの突然の変貌ぶりに驚きはしたものの、それは単純に彼が僕らよりも幼いゆえに突如として訪れる【その別れ】を理解できないからであって、仕方ないことだと思っていたためだ。
ちらり、と辺りを見渡してみてもルリアナやキルーガも僕と同じように思っているんだろうなという素振りをしている。
ルリアナの腕の中で身を縮こまらせて笑みを浮かべているノスティアードに至っては、おそらくサミィよりもずっと幼い子供の思考に退行してしまっているから、この地に危機が起こっていることさえ理解できていないだろう。
「おい、お前……っ____お前は今のノスティアードと違って、ここで何が起きたかくらい理解できているはずだ。いきなり大切な存在を下劣な奴に奪われて、満面の笑みを浮かべるなんて……いったい何を考えてるんだ!?何が、そんなにおかしいっていうんだ____」
そんな状況の中、ソナの叫び声だけが辺りに響き渡る。
あまりの凄まじい剣幕に、僕は慌てて彼らの元へ駆けて行き、更に建物の残骸にまみれてメチャクチャな状態の地に両膝をつけてサミィにすがり付くソナを半ば強引に引きはがすようにして制止する。
ソナは、まさか僕に制止されるとは思ってもいなかったのか、目を丸くして此方を睨み付けながらも少しすると気まずそうに目を逸らしてから「ルベリア様、申し訳ありませんでした」と絞り出すように謝罪の言葉を述べてきた。
ちらっとサミィの方へ目をやったソナだったが、無言で無邪気なまま笑いかけてくる彼から目を逸らすとボロボロになった建物の残骸の上に腰を降ろして懐から地図を取り出すと散り散りになっている一行へ声をかける。
「それで____これから、いったい何処へ向かうのです?目的地のイ・ピルマへ着くためには容易なことではありません。ここがこうなってしまった以上、これから先も敵がくる……ルベリア様、あなたに聞いているのです。あなたは、次に何処へ向かうのが適切であると考えますか?」
ソナがそう問いかけてきた途端、鋭い視線が僕へと突き刺さる。
ひとつは、ソナの視線____。
もうひとつは、兄であるルリアナの視線____。
(これは、お前が決めた道だ……お前自身で考えて……これからの道を示してみろ____)
直接言葉に出さずとも、二人の厳しい視線が僕の心に語りかけてくるのが分かる。
こんなにも、地図と睨めっこするのは初めてだ。かつて、今は亡きセレドナとはしゃぎながら地図を見つつ「いつか、こんな場所に行ってみたいなぁ」「いつか絶対に、家族皆で行きましょう」と夢を語り合った日を思い出す。
その夢は、叶うことはなかった。
そんな感傷に浸っていたからか、いつの間にか背後に【ナンダ】が近づいていたことに気付かず、羽毛に優しく右手を覆われて、ようやくその存在に気付く。
【ナンダ】に慰められたおかげで、心がスッと軽くなり、かつてセレドナと過ごした懐かしき日々の光景を頭の中から消し去ると、地図に現れた異変に気付くことができた。
【アルマナの水場】____。
地図に書かれた文字が、ぐにゃりぐにゃりと歪みながら空中に浮き、まるで此方にその存在を強くアピールするかのように螺旋状に回転しながら眼前に迫るくらいに近寄ってくる。
(まさか、これに気付いてるのは……僕だけなのか____)
そう怪訝に思いながらも、ルベリアは周りにいる皆にも分かるように指で、自らが次なる目的地と決意した場所を示す。
【アルマナの水場】____皮肉なことに、イ・ピルマに至るまでに通過する地名は、かつてセレドナが「家族皆で行こう」と夢に描いていた、まさにその場所なのだった。
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