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第3話

「悪いが、それはできない」 「いやいや、困りますまじで。俺親に外泊するとか言ってないし、友達にも彼女にも何も言ってない。ペットのにゃあ子にも。きっとみんな俺がいなくなって探してる」 「それは大丈夫だ。お前をこちらに呼んだ際に記憶を徐々に消していくよう、レイティーを使った」 「…は、ふざけんなよ、なにしてんだよ」 あまりに勝手な彼の言い分に腹が立ち、思わず語気を荒げる。 「王の気まぐれだ」 「俺に何の恨みがあってこんなことするんだよ」 「見たことも聞いたこともなかったお前に、誰も恨みなんか持ってないさ。本当に単純な王の気まぐれだ」 「何で俺なんだよ」 「クレイルの伴侶の生まれ変わりだからだ」 「それ…この前も言ってたけどさあ、俺男だよ。いくら生まれ変わりだからって男だ」 「そんなの、あいつには関係ないんだよ」 それだけ言って、もう話すのが面倒になったのかレヴカは部屋の扉へ向かった。 「まさか男だとは思わなかったし、クレイルがあんなつまらなそうな顔をするとも思わなかったがな」 ガチャと開けられた扉は、それだけの言葉を残して再び閉じられた。 王、クレイルには、今の俺と同じ年の奥さんがいたらしい。あの不遜な態度の無愛想な男が、彼女の前では顔を崩して大声で笑っていたらしい。奥さんは、明るくて楽しくて優しい人だったという。レヴカは彼女の話をしながら、懐かしげに、寂しそうにした。まるで今にも泣きそうなような。 彼女はある日突然、亡くなった。クレイルが目を覚ますとすでに彼女は息をしていなかったという。突発的な病気なのか、誰かによる犯行なのか、いまだに分かっていない。それからクレイルは誰に対しても笑いかけなくなった。 悲しい物語だなとは思う。本当におとぎ話の世界だな、そう思う。可哀想だと思う。 でも俺はただの傍観者にしかなれない。生まれ変わりだといわれても、自覚がないし、クレイルを見ても今のところ何も思わない、クレイル自身も俺に興味のあるそぶりは見せなかった。実際興味がないんだろう。 彼女は柔らかな透き通るような琥珀色の髪に、アイスブルーの瞳を持つ可愛らしい女性だったらしい。背の位は俺より頭半分ほど低く、いつも楽しそうに笑っている人だったという。 対する俺は、流行っていたからというだけの理由で染めた人工的なミルクティブラウンの髪に生まれつき薄茶色の瞳、楽しいことがあれば笑うが、いつも笑顔だなんて、そんな訳ない普通の男だ。 しかしレヴカはそんな俺に、確かに色や形は彼女とは違ってるが、顔立ちは彼女ととても似ていると言った。 男を好きになったことなんてない。 クレイルは男の目から見てもかっこいいと思うけど、所詮男だ。代わりを求められたところで、絆されるとは到底思えなかった。俺は異性愛者で、彼の気まぐれに呼び出されたことにいい加減辟易としていた。 冷たい、宝石みたいな、深いエメラルドグリーンの瞳を思い出す。怖いと思った。 俺に全く興味がなく、怒りさえ浮かべるようなその瞳を。 気まぐれで俺を殺してしまうことさえもできてしまいそうな彼自身を。

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