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第7話 好きな人?

イヌは身体を起こして俺の腕を引っ張った。 力が入らない俺は、イヌの腕のなかでおとなしくなった。 イヌは、俺の頬についた泥を拭うと、ふたりの着物についた土を音を立てて払った。 「俺たち泥だらけだな。沐浴に行くぞ、ももたろう。ん、どうした?」 「腰が抜けて……立てない」 「ははは、ちょっと刺激が強すぎたか。ほら、よっと」 「うわっ!?」 イヌは俺を軽々と抱き上げた。 「ももたろう……ちゃんと米、食ってんのか? すげぇ軽いんだけど」 「米ってなに?」 「あー、おまえんちは粟か? 俺は金かかってもいいから米を食ったほうがいいと思うけどな」 「あわ? それも知らない」 「えぇ、おまえ! なに食ってんの?」 「畑で獲れた野菜を少し。大丈夫だよ、お汁に栄養があるから!」 「うわあー、俺、ひいたよ。じいさんの教育方針に。よし、決めた!」 イヌは俺を抱えたまま、走り出す。 「イヌ! おろして!」 「沐浴はやめだ。いい宿をとるぞ!」 「ええ、港に行こうよ!」 「この日の高さなら、港に着く頃には船はもう出てるぞ。宿でおまえが知らないことを体験させてやる! 楽しみにしておけよ。ちょっと宿まで時間がかかるから、駆け足で行くぜ」 イヌは、歩く旅人たちを次々と追い越す。 男に手を引かれた童が、俺を指差して笑った。 「あ! あのおにいちゃん。おとななのにだっこされてるー」 「このにいちゃんはな、俺の深堀りテクニックにめろめろになったから、へたっちまったんだ」 「ふかぼりぃ?」 「おい、うちの息子になんてことを教えるんだ!?」 「イヌ、なに言ってるんだ!? めろめろになんかなってないよ!」 「あぁん? あんなに喘いで? 感じたんだろ、ももたろう?」 「……うん。気持ちよかった」 「ははは! ももたろうはやっぱかわいいなあ!」 イヌは親子を追い越した。振り向き、大声で言った。 「わははは。おまえもおおきくなったら、好きな人をたっぷり深堀りできるぞ! じゃあな!」 「うん、おいらもふかぼりするぅ!」 「こら!」 「とうちゃん。おいら、ふかぼりしたい! とうちゃんもふかぼりしたい?」 「し、静かに!」 「はははは!」 ……え。 おまえ『も』? 『好きな人』? ちょっと待て。イヌは俺のことが好きなのか? イヌの本心がわからなくて、俺はどきどきした。いまのは勢いで言ったんだよな、そうだよな? イヌに抱えられていると、自然と胸に目がいってしまう。胸筋、固いなあ。しっかりした胸板だ。 若い男特有の汗臭さも、いまの俺は気にならない。むしろ、もっと嗅いでいたい。それに、いまの俺も同じように汗臭いだろう。 イヌの走る動きに合わせて、俺の身体が揺れる。 不意に、桃尻のなかが……。 「あ、あんっ」

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