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第9話 おまえが物足りなくなったら、これの出番だ
宿に着くと、俺たちは湯に浸かり、部屋で食事をとった。
村で食べたことがないものばかりで、俺はがつがつと食べた。イヌは、これも食べろと、自分の分を俺に少し分けてくれた。
着物は、宿の主に銭をいくらか渡せば洗ってもらえるらしい。でも俺は桶と洗濯板を借りた。
おじいさんが縫ってくれた着物だから、自分で洗うんだ。
俺たちは浴衣を着て、部屋の縁側にいる。
庭に出て着物を洗う俺を、イヌがあぐらをかいて眺めている。縁側に置いたろうそくの灯りを頼りにして、俺は着物を洗濯板で擦って泥を落とした。浴衣を襷掛 けにして。
「ももたろうー。手ぇ、疲れないか?」
「大丈夫だよ。……やった、汚れが落ちた! 次は、イヌの着物を洗うね」
「おい、俺のはいいって。黒いからわかんねーよ」
「でも、綺麗にしたらさっぱりするよ」
俺はイヌの着物を洗った。桶のなかの水がますます黒くなっていく。もう少しで終わると思った、そのとき。
「いたっ!」
「どうした、ももたろう!?」
イヌが駆け寄ってきた。俺はイヌに指を見せた。
「さっき木の皮が刺さったところに、水がしみたんだ。皮は取ったんだけど、まだひりひりする……」
「うわあ、なんか赤くなってるな……んっ」
イヌは、俺の指をくわえた。
「え、え? どうしたの、イヌ……?」
「まあ、見てなって。イヌ様の技を見せてやるよ。ん、ちゅ、くちゅ……」
俺の指を口に含んで、イヌは舌を転がした。あ、なんか気持ちいい。痛みがうすれていく……。
「ほら、どうだ!」
「すごい、傷が治った!?」
「俺の唾液には傷を癒やしたり、力を高めたりする効果があるんだよ。……だから、あんときも唾で慣らそうとしたんだけどなあ」
『あのとき』とは、イヌが俺を抱っこしたときのことだろう。
「まあ、ふたりとも楽しめたからいっか。着物、洗ってくれてありがとな。ももたろう」
「お汁をくれたお礼だよ。おいしい夕飯も分けてもらったから」
俺はしゃべりながら、解いた襷を袂にしまった。
「へぇ。おまえはお汁と飯をもらったら、なんでもするのか? ならさ……」
イヌは俺を抱きしめた。
湯を浴びたあとだからなのか、イヌの肌は熱い。ふれあっていると、冷たい夜気が消え去ったような感じがした。
突然のイヌの抱擁に、俺は胸が高鳴った。どうしてだろう。俺……イヌの近くにいると、なんでこんなに戸惑ってしまうんだろう。
「ももたろう……」
「は、はい!」
「ぷ。なんで、急にていねいに答えるんだよ?」
「だって、びっくりして……」
「そっか。なあ、おまえんなかにお汁をたっぷり出してやるからさ……毎晩、毎晩。うまい飯だって食わせるぞ。山で獲った鹿の肉も、飼ってる山羊のお乳も、おまえと俺で半分こだ。だから、俺の嫁さんにならねぇ?」
「……え? ええええ!?」
どうしてとか、いきなり言うなとか、そんな言葉は出てこなかった。
「イ、イヌ……ん、んー。や、んっ」
イヌにくちづけされた。深く、深く。
急な接吻に息ができない。よろめいたら、イヌに腰を引き寄せられた。
イヌの舌は、さっき俺の奥を暴れていたイヌのものと同じように、自分勝手に俺の口内を動いている。でも……乱暴だけど、俺のいいところを確実に攻めてくる。
イヌの左手が俺の首筋を辿る。浴衣の胸元がはだけて、俺の肩が露わになる。イヌは俺の肌に唇を滑らせた。
「や、イヌ……」
「ん、あんとき……痕をつければよかったな。鬼ヶ島の鬼に伝えてやれるのに。おまえなんかに、ももたろうは抱っこさせねぇよってな……ま、いっか。いま印をつければいいんだからよ……よっと」
イヌは俺を抱き上げると、部屋に連れ込んだ。部屋には、布団が並んで敷いてある。俺を布団におろすと、イヌは部屋の障子を閉めた。
振り返ったイヌは笑っていた。
「ももたろう。お汁、また欲しくなっただろ?」
「う、うん……欲しいけれど……」
俺の身体はもつのか?
「イヌ。それより、息子弄りを教えてよ。それができたら、欲求不満にならないんでしょ?」
イヌが覆い被さってきた。イヌは自分の浴衣を脱ぐと、イチモツをさすっている。あっという間に、それは漲ってきた。
「いや、教えるのはやめた。おまえが物足りなくなったら、これの出番だ」
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