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第10話 おまえの顔を見ながら抱っこしたい

俺は唾を飲み込んだ。障子の向こうの縁側には、ろうそくがある。 障子越しの灯りに照らされたイヌのそれは、陰影がくっきりしていて昼間より禍々しく見えた。 また、お汁がもらえるんだ……イヌとずっといっしょにいたら、俺の桃尻はずっと艶々に潤ったままだろうなあ。 ……は!? 俺は、いまお汁を基準にして将来を決めようとしていた!? でも、お汁いっぱいの毎日って幸せだろうなあ……。 「イヌ。ほんとうに、ずっとお汁が出せる?」 「おう!」 「じゃあ、いまから朝まで出せる?」 「へえぇぇ、あ、朝までぶっぱなすのか!?」 んん? イヌは勢いで言ったのか? すかさず、俺は戦術を使った。 秘伝! 誘惑のお汁絞り! 「俺、お嫁さんになる自信ない……もしお汁が欲しくなっても、イヌが出せないときが来たら……他の男に走りそうだよ……」 俺は浴衣の袂を口でつまんで、しなをつくり、あまえるように言った。 「も、ももたろう……なんで、いきなり色っぽくなるんだよ……」 俺を見つめるイヌの頬が赤くなっていく。 「イヌ。自分のお汁が出なくなったら、イヌはどうすんの……?」 「そんなことあるわけないだろ!? さっきだって、おまえに会ってすぐにヤれただろ? おまえが立てなくなるくらい、抱っこできただろ?」 「ふうん。じゃ、ヤってみようか? ……朝までな!」 「お、おうよ! 泣いても知らねぇからな!」 イヌは俺の浴衣を剥いだ。俺の全身を舐めまくる。 「イヌ、イヌ! 唾じゃない、俺が欲しいのはお汁だ、お汁!」 「だから前戯だよ、前戯! お汁はあとでまとめて出すから!」 「あ、あぁん、俺たちって合うんだか、合わないんだか、わからないなあ……あ、あん」 文句を言いながらも、俺はイヌの攻めに喘いだ。やっぱり、こいつ、うまい。……悔しいけど。 「ももたろう。俺たちはお似合いなんだよ」 イヌは俺の両手に指を絡ませてきた。 「お互い相性良すぎて、翻弄されてるんだよ。だから、切羽詰まった感じになるんだ」 イヌはじっと俺の顔を見ている。 「なあ、ももたろう。俺、今夜はおまえの顔を見ながら抱っこしたい」 「ワンワンスタイルじゃなくていいのか?」 イヌは満面の笑みで頷いた。 「ああ。おまえのイく顔を、この目でじっくり見たいからな!!」 「……じゃあ俺も、イヌがお汁をぶっぱなす顔を観察するよ」 強がって返したけれど、イヌの言葉にはどきどきした。 イヌ、ほんとうに俺をお嫁さんにしたいんだ……。 お汁さえあれば、俺はなにもいらない。だから俺は……いや、俺には使命があるんだ。 ……イヌ。俺はおまえの目の前で鬼に抱っこされて、お汁を注がれるんだよ? それでもお嫁さんにしたいのか? イヌ? 俺はイヌに抱っこされながら、言えない言葉を心の奥でつぶやいていた。

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