10 / 19
第10話 おまえの顔を見ながら抱っこしたい
俺は唾を飲み込んだ。障子の向こうの縁側には、ろうそくがある。
障子越しの灯りに照らされたイヌのそれは、陰影がくっきりしていて昼間より禍々しく見えた。
また、お汁がもらえるんだ……イヌとずっといっしょにいたら、俺の桃尻はずっと艶々に潤ったままだろうなあ。
……は!? 俺は、いまお汁を基準にして将来を決めようとしていた!?
でも、お汁いっぱいの毎日って幸せだろうなあ……。
「イヌ。ほんとうに、ずっとお汁が出せる?」
「おう!」
「じゃあ、いまから朝まで出せる?」
「へえぇぇ、あ、朝までぶっぱなすのか!?」
んん? イヌは勢いで言ったのか? すかさず、俺は戦術を使った。
秘伝! 誘惑のお汁絞り!
「俺、お嫁さんになる自信ない……もしお汁が欲しくなっても、イヌが出せないときが来たら……他の男に走りそうだよ……」
俺は浴衣の袂を口でつまんで、しなをつくり、あまえるように言った。
「も、ももたろう……なんで、いきなり色っぽくなるんだよ……」
俺を見つめるイヌの頬が赤くなっていく。
「イヌ。自分のお汁が出なくなったら、イヌはどうすんの……?」
「そんなことあるわけないだろ!? さっきだって、おまえに会ってすぐにヤれただろ? おまえが立てなくなるくらい、抱っこできただろ?」
「ふうん。じゃ、ヤってみようか? ……朝までな!」
「お、おうよ! 泣いても知らねぇからな!」
イヌは俺の浴衣を剥いだ。俺の全身を舐めまくる。
「イヌ、イヌ! 唾じゃない、俺が欲しいのはお汁だ、お汁!」
「だから前戯だよ、前戯! お汁はあとでまとめて出すから!」
「あ、あぁん、俺たちって合うんだか、合わないんだか、わからないなあ……あ、あん」
文句を言いながらも、俺はイヌの攻めに喘いだ。やっぱり、こいつ、うまい。……悔しいけど。
「ももたろう。俺たちはお似合いなんだよ」
イヌは俺の両手に指を絡ませてきた。
「お互い相性良すぎて、翻弄されてるんだよ。だから、切羽詰まった感じになるんだ」
イヌはじっと俺の顔を見ている。
「なあ、ももたろう。俺、今夜はおまえの顔を見ながら抱っこしたい」
「ワンワンスタイルじゃなくていいのか?」
イヌは満面の笑みで頷いた。
「ああ。おまえのイく顔を、この目でじっくり見たいからな!!」
「……じゃあ俺も、イヌがお汁をぶっぱなす顔を観察するよ」
強がって返したけれど、イヌの言葉にはどきどきした。
イヌ、ほんとうに俺をお嫁さんにしたいんだ……。
お汁さえあれば、俺はなにもいらない。だから俺は……いや、俺には使命があるんだ。
……イヌ。俺はおまえの目の前で鬼に抱っこされて、お汁を注がれるんだよ?
それでもお嫁さんにしたいのか? イヌ?
俺はイヌに抱っこされながら、言えない言葉を心の奥でつぶやいていた。
ともだちにシェアしよう!