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「セイ……離せ、今なら警察には言わな……」  懸命に発した言葉は彼の唇に塞がれてしまい、最後までは紡げない。 「ん、んぅ……」  咄嗟に歯を噛み舌の侵入を阻止すると、歯列を軽くなぞっただけで唇は離れていった。 「警察って言えば、俺が引くとでも思った?」  腹の上へと馬乗りになった聖一に、両手首を顔の横へと縫いつけられてしまった貴司は、悔しさに顔を歪める。 「警察には何て言うつもり? 男に監禁されてマワされましたって? 相手にして貰えるかなぁ、それに、行くなら逃げ出して直ぐに行けば良かったのに……ホント、貴司さんは甘いよね。だけど、そんな所も、俺は好きだよ」 「……っ」  至近距離で囁く彼に返す言葉が見つからず、掌をギュッと握った貴司が、近づいてきた唇を避けるために顔を背けると、頬に軽く唇が触れる。 「何で逃げたのかは知ってるから、どうやって逃げたのか教えて? 貴司さんが自分で言って、ちゃんとごめんなさいが言えたら……今回だけは許してあげる」  彼の言葉の理不尽さに、思わず貴司は目を見開くが、そんな反応など気にも止めないで聖一はさらに話を続けた。 「貴司さん、拗ねたんだよね。俺が他の男にばかり抱かせたから」 「違う。俺は、この間違った関係を終わりにしたくて……っあうぅっ!」  まるで見当違いの発言に、口を突いて出た反論は、耳を襲った激痛によって遮られる。 「いっ、止めっ……くぅっ」  耳たぶにギリギリと犬歯が食い込んできて、余りの痛みに貴司は叫ぶが、身を捩れば捩る程、更に強く噛まれてしまう。 「や……ああっ……いっ」  瞳にうっすらと涙が滲み、ジンジンとした痛みが痺れへと変わった頃、ようやく口を離した聖一が今度はそこを甘噛みしてくる。 「ん、うぅっ……止めろっ、離せ!」  ペロペロと舌が這う感触に、覚えのある疼きが背筋をせり上がり、体中へと鳥肌が立った。 「貴司さん、耳弱いよね」 「んぅっ」  一旦口を離した聖一の囁きに、意志に反して体がピクリと反応してしまう。  ――駄目だ、こんなの嫌なのに。  声を上げてしまわぬよう、貴司は歯を食いしばるけれど、そんな些細な抵抗も、次に聖一が放った言葉に脆くも崩れ去ることになる。 「ねえ貴司さん、『彼』との生活は、楽しかった?」 「なっ……」  信じられない彼の発言に一瞬にして貴司の体は凍りつく。恐る恐る顔を向ければ、唇の片端だけを上げた彼の姿があった。 「びっくりした?」  尋ねてくるその声は、この場にそぐわぬ類の喜色を滲ませていて……戸惑いを隠しきれずに貴司が視線を彷徨わせると、愉しげに微笑んだ彼が額へとキスを落としてくる。  ――全部……知られてる? 「知ってるよ。でなきゃどうやって捕まえるの?」  頭に浮かんだ疑問を見透かしたように低く囁いた彼は、更に口角を綺麗に上げた。その瞳と目が合った途端、貴司の顔ははっきりと色を失っていく。 「俺は、貴司さんの口から聞きたいんだよね。自分のしたことを言って、それから謝ったほうが、自分でも良く分かるでしょ? ちゃんとできたら願いを一つだけ聞いてあげる」 「俺は……」  間違えてなどいない。おかしいのは聖一の方だと強く思う。けれど、それを口に出すことは、今の貴司にはできなかった。

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