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――ごめん。
閉じた瞼の裏へと浮かぶ何人かの人達に、心の中で謝罪を告げて貴司は静かに口を開く。
「北井(きたい)くんに……頼んだ」
小さな声で名前を告げると、褒めるように頬を撫でられた。
「ふぅん……あの時、貴司が浩也(こうや)にそんなお願いをしてなんて、全然気づかなかった。浩也を動かすなんて大したモンだね……で?」
――知ってる……癖に。
続きを促すその声に、貴司は心の中で呟き、それから再度口を開いた。
「お前がいない時を見計らって、来てくれた」
「部屋の鍵はどうやって開けたの?」
「知らない……あぁっ、ホントに知らなっ」
嘘だとばかりに尿道口へと爪を立てられ、貴司は痛みに悶絶する。
「まあいいや、それから?」
「それだけ……聞かれたことには答えた」
聖一は『どうやって逃げたのか』としか聞いてこなかったから、全てを知られているとしても、協力してくれた人の名前を口に出したくはないと思った。
「上手いこと考えたね」
喉を鳴らして笑う姿は息を飲むほどに綺麗だが、彼をよく知る貴司の目には底の知れない狂気が見える。
「あっ……あぁ…んっ」
突然、乳輪ごと胸を摘まれ、貴司の口から紛れもない嬌声が上がってしまった。
凌辱され続けた体は、その心とは裏腹に……与えられる愉悦に対し従順に反応してしまう。
「織間(おりま)歩樹(あゆき)だっけ? あいつが半年以上も匿ってくれたお陰で、全然見つからなかった。ねえ貴司さん……俺、気が狂いそうだったよ」
独言のように彼が囁く。
「アイツ、貴司のこと好きなんだね。俺の所にまで乗り込んできた。貴司を解放しろってね。正直ムカついたけど、お陰でようやく流れが読めて、アイツより早く貴司を見つけることができた」
「あ……アユ…が?」
「アユって呼んでたんだ。ちょっと妬けちゃうなぁ」
手を伸ばした聖一が、唇へと触れてくる。
「何処まで赦した? キス? それとも、ここにアイツのも咥え込んだ?」
「違う、あっ……ああっ!」
前立腺を目掛け何回も抽送を繰り返されて、行き場のない熱が渦巻き貴司の意識は混濁してきた。北井浩也に助けられた後、その繋がりで織間歩樹の家へ行ったのは真実で、歩樹との間に何にもなかったとは言い切れない。だけどそれは、聖一の考えているような物ではないのだ。
「探して、探して、やっと見つけたら逃げようとするし、知らない間に他の男をくわえ込む……本当に貴司は酷いよ」
「んっ……あっ……あぁっん」
激しさを増す抜き差しに喘ぐ貴司の視界はグラグラと揺れ、思考を維持することが困難になってきた。聖一が紡ぐ言葉の意味さえ切れ切れにしか伝わってこない。
「俺のこと、好きだって、付き合うって言ったのに、いつも貴司は逃げる。もう俺は、どう――」
いつになく切羽詰まったような、叫びにも似たその声は、幻聴なのか、現実なのか、大事な所が聞き取れなかった。
「やっ……やめろ……セイ……イく、イきたっ……あぁっ!」
狂ったような激しい突き上げに、疲れきった心は完全に快楽へと堕ちていく。
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