13 / 96
12
「ごめんなさいは?」
「ごめん…なさっ……許して……イかせて」
結局、散々体に教え込まれた愉悦に抗うことはできず、貴司の口から遂に零れた懇願に、冷静さを取り戻したように聖一はピタリと動きを止めた。
「あっ……あぁ」
もどかしそうに腰を捩っている貴司のペニスの革紐を解くと、聖一は、唇へチュッとキスを落としてきた。
「ん……んぅ」
「貴司は、そうやって何も解らなくなってる時が、一番素直だね」
言いながら、伸ばした掌で聖一が何かを掴み取った。
「自分が誰の物なのか、すぐに忘れちゃうみたいだから、印をつけてあげる」
笑みを浮かべた綺麗な顔を虚ろに見上げる貴司には、自分の身に降りかかろうとしていることを、理解するだけの気力はない。
「うぅ……あ……な…に?」
突然、胸へと感じたジンジンとした痛みを伴う感触に、狼狽え戸惑う貴司の耳に、「消毒液」と、淡々と答える聖一の声が聞こえた刹那。
「いっ……あああっ!」
胸へと走った激痛に、貴司の口から悲鳴が上がった。
――痛い!痛いっ!
神経を直接刺されるような、激しい痛みに体が強張りカタカタと震える。
「痛い? ごめんね。でもあと一回だけ我慢して」
優しい声音に視線を落とすと、左の乳首を真横から太い針が貫いていた。
「ひっ…やめろ……いたぃっ!」
信じられない事態に目を瞠り、静止を求めた貴司の右の乳首へと、聖一は躊躇うことなくもう一本の針を宛てがう。
「セイっ、やめて……おねがいだからっ」
あまりのことに涙が溢れた。
「言うことを聞くんだろ」
貴司の必死の懇願に耳を貸す素振りなど微塵も見せず、柔らかいけれど冷たい声が歪な空間の空気を揺らす。そして。
「あっ……やああぁっ!」
ブスリッと頭の中に嫌な音が轟いて、今度は貴司の目線の先で右の乳首が貫かれた。
「いっ、痛い!どう……して?」
ショックのあまり瞳からは次から次へと涙が溢れ、男としての矜持を砕かれた貴司は小さく彼へと問うが、精神的にも肉体的にも限界を超えていたために、求める答えを得ることもなく、そのまま意識を手放してしまう。
――なんで……お前がそんな顔してるんだ?
完全に堕ちてしまう寸前、瞳に映った聖一の顔が悲しそうに見えたのは、何かの勘違いだろうか? 薄れていく意識の中でそんなことを思うけれど、今の貴司には確かめるだけの気力が残っていなかった。
ともだちにシェアしよう!