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 彼はいつ見ても、まるで表情を浮かべていないのだ。  悩んでいる様子でも、考え込んでいる様子でもない全くの無表情。それが彼を描きながら貴司が抱いた印象で、人形のように整った顔は浮世離れしていて、話し掛けたら消えてしまうんじゃないかと思えるほどに儚い。  ――どんな顔して笑うんだろう?  そんなことを考えながら、貴司は自分が無意識のうちに少年を見つめてしまっていることに気がついた。途端、激しく動揺してしまい、それを誤魔化すために何気なく辺りへと視線を移し、たまたま視界に映った時計の時刻を見て、思わず「あっ」と声を上げた。  ――マズい!バイトの時間だ。  大学の夏休み期間は昼前から夜までシフトが入っていたのを思い出し、貴司は慌ててスケッチブックを鞄に仕舞うと、立ち上がってから走り出す。 ブランコの前を通過しながら横目でチラリと彼を見遣ると、一瞬だけ視線が合ったような気がした。  ――それにしても。  中学生はまだ夏休みじゃないはずなのに、なぜ彼はいつも公園にいるのだろう……と、貴司は不思議に思うけれど、考えても分かるはずがない。  ――まあ、関係ないか。  きっと彼には彼なりの理由があるのだろうと結論づけると、それ以上は考えるのを止め、アルバイトに遅刻しないよう貴司は走るスピードを上げる。  今度公園に来る時にも、少年がいればいいと願っている心には、敢えて気づかないふりをして。    ***  夜の内から降り始めた雨は、朝になってから多少勢いは弱まったけれど、未だ降り止む気配はない。  ――昨日はあんなに晴れてたのに。  窓の外へと視線を向け、貴司はひっそりと溜め息をついた。  これでは公園へ行くことができない……なんて考えてしまう自分の思考に、気恥ずかしさを覚えた貴司は思わず唇に苦笑を浮かべる。  ――図書館にでも行こう。  頭に浮かんだ少年の顔を打ち消すように軽く頭を横へと振り、鞄からスケッチブックを取り出し勉強道具を入れる。  ――明日は、晴れるといいな。  そう考えてしまったところで、またもや少年を思い浮かべた自分自身に、今まで他の誰かの存在に想いを馳せたことなど殆どなかった貴司は、戸惑いを覚えるけれど、そんなことよりも今は久々にアルバイトのない一日を、有意義に使うほうが大事だと思い直して部屋を後にした。

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