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「俺は、そこの大学の二年生で、怪しくないって自分で言ってもダメか。そうだ、これ……」  鞄の中から学生証を取り出して、少年へと提示する。 「……本城…貴司……さん?」 「そう、これで少しは怪しくないだろ? こんな状態でこのまま帰して、風邪でもひいたら大変だって思うから、もし君が良ければ、着替えて行ってくれたら……嬉しい」  ――何を、言ってるんだ。  常ではない自分の発言に、恥ずかしくなった貴司の顔は熱くなり、それを見た少年の表情が少しだけ緩んだ……気がした。 「じゃあ……お言葉に甘えます」  暫し流れた沈黙の後、ようやく返ってきた言葉に、なんだかとても嬉しくなってしまった貴司は、頷きを返しながら思わず口許を緩めて微笑む。 「こっちだよ」  一旦渡した傘を受け取り部屋へ少年を案内しながら、貴司は今まで感じたことのない気持ちに包まれていた。気づけばつい先ほどまで胸を占めていた不安感も、すっかり息を潜めていて。  ――本当に今日の俺は、どうかしてる。だけどこんな日もたまには……。  あっても、いいのかもしれない。 「どうぞ」  一階の一番奥にある自分の部屋へ誰かを招き入れるのは初めてで、少し緊張しながらドアを開けると、貴司は先に中へと入って少年に向かい手招きをした。 「失礼します」  礼儀正しい言葉遣いも、慣れてしまえば彼の見た目に良く合っている気がするから、不思議なものだ。 「ちょっと待ってて」  玄関に立っている彼の横合いへと手を伸ばし、ドアを閉めながらそう告げると、貴司は洗面台の下からバスタオルを取り出してきて彼へと手渡した。 「今、服を出すから、軽く拭いたら上がっていいよ」  告げた言葉に頷き返した少年が、ゆっくりとした動作で体を拭いているのを確認してから、貴司は部屋の中へと入る。押し入れの中の引き出しから、なるべく新しめのTシャツを選びながら、貴司は胸が温かいような、むず痒いような、そんな気持ちに囚われるけれど、それが何を意味するのかは分からない。その気持ちの正体に、本当の意味で貴司が気づく日がくるのは、まだずっと先の話だった。

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