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コクリと頷く聖一に、サラダも食べるようにと告げながら、貴司はあと一年以内で今の環境が変わってしまうことに漠然と不安を抱いていた。早く社会に出て、本当の意味で自立したいとずっと思っていたはずなのだが。
「セイ、学校は楽しい?」
「うん、楽しいよ」
返ってきた短い答えに「良かったな」と頷きながら、聖一を取り巻く環境が、良い方向へと向いていることに安堵しながらも、彼にとって『逃げ場』だったであろうこの場所は、きっともう不必要ではないかとふと考える。
――ダメだな……俺。
日に日に成長していく彼とは裏腹に、相変わらず他人と接するのが苦手な自分が情けなかった。
「俺も頑張って就職決めないとな」
聖一だけには弱い所を見せたくないから、できるだけ明るく貴司が言うと、サラダをつつく彼のフォークがピタリとその動きを止めた。
「貴司さんは、就職したらこの街を出ていくの?」
「え? そうだな……多分、ノースイとか、AUHにでも入れたら、ここにいられるかもしれないけど、もし入れても本社配属になるとは限らないし」
聖一の、何かを訴えかけるような瞳の色に、しどろもどろになってしまう。挙げた二つの大企業は、この街に本社を置く有名企業なのだけど、いくら名の知れた大学とはいえ、貴司が受けて入社できる可能性は低いと思われた。
「……そうなんだ」
呟く声が寂しそうに揺らぐ。
「セイは、俺が遠くに行ったら嫌?」
試すような言葉を使うのは嫌だったのに、聞かずにはいられなかった。自分が聖一を必要だと思うように、彼もまた、必要としてくれているのかを知りたかった。
「寂しい」
ポツリと返された彼の言葉に胸の中が満たされていく。こんな気持ちを〝家族愛〟と呼ぶのかもしれないなどと考え、初めて感じた高揚感に貴司の心臓はドキドキと脈を打ちはじめた。
「なるべくここで見つけるようにするから、だからそんな顔するな」
彼の暗い表情を見ているのは辛いから、できるだけ明るい笑顔を作ってそう告げると、それを聞いた聖一の顔も嬉しそうに綻んだ。
***
「そろそろ寝ようか」
ようやく課題に区切りがついたのは深夜の一時を回った所で、向かいで本を読んでいる彼へ声をかければ、顔をゆっくり上げた聖一は頷きながら立ち上がる。六畳一間のスペースの中に寝場所を確保するために、二人でテーブルを端へ寄せてから、手分けして布団を一組敷いた。先に布団へ入った貴司は「電気消して」と言いながら、よく考えたらおかしい状況に思わずクスリと笑いを漏らす。
「どうしたの?」
電気を消し、隣へ並んで寝そべってきた聖一が、不思議そうに聞いてくる。
「だってさ、小学生の時と違ってお前も大きくなったから、男二人が一つの布団って暑苦しいって思って」
最初に泊まった時からずっと一緒の布団だったから、今まで自然にそうなっていたが、良く考えたら狭いし暑い。
「次にバイト代入ったら、布団買うか? テーブル台所に置けば、二枚敷けるだろうし」
何で今まで気づかなかったのだろうと可笑しく思いながら、貴司が告げると聖一がいきなり起き上がった。
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