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「どうした?」  目が暗闇にまだ慣れなくて表情までは分からないけれど、起き上がってこちらを向いた聖一の様子がいつもと違うような気がして、貴司は戸惑いを覚える。 「……要らない」 「え?」  一瞬、彼が何を言っているのか分からなくて、貴司は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。 「布団、要らない。一緒に寝たい」 「なっ」  更に紡がれた言葉でようやく言いたいことを理解した貴司は、思わず吹き出しそうになったが、凄く真剣なその声音にどうにか言葉を飲み込んだ。  ――人肌が恋しいのかもしれない。  体は大きくなったとはいえ、相手はまだまだ子供なのだと考えると、そんな聖一が可愛く思えて、貴司の中には可笑しいというより嬉しい気持ちが溢れてくる。 「分かったよ。セイが狭くないなら、布団は当分買わないから」  いつもよりも優しい声が出ていることに、貴司本人も気づいていないが、そう告げた時、聖一がホッと息を吐き出す気配がして、それから暫しの間沈黙が二人の間に流れたが、眠ろうと思い目を閉じたあと、「ありがとう」と囁く声が部屋の中へと小さく響いた。   *** 「セイ、起きろ」 「……んぅ」 「こらっ……セイ!」  最近は、いつもこうだ。目が覚めると必ずと言っていいほど聖一に抱き込まれている。今日も、寝苦しさに目を覚ました貴司の体には、背後から聖一の腕がきつく絡みついていた。起こさないようにそっと抜け出そうとしても、途端に拘束が強くなるから質が悪い。 「ったく、俺は抱き枕じゃないんだから……ほら、セイ!」  言いながら、体を反転させようとした貴司だけれど、腰の辺りに感じた違和感に一瞬にして体を硬直させた。  ――マズい。  腰に当たっているものが、何なのかなんて同じ男なら分からないはずもなく、聖一が朝勃ちしていることをはっきりと理解した貴司は、どうにか体を離そうと試みるけれど、動けば動くほど密着した部分の硬さをリアルに感じとってしまう。 「セイっ、お前は寝てて良いから、手を離せ」 「……ぅん? ……痛っ!」  多感な思春期を迎えた彼に、恥ずかしい思いをさせたりしないよう、素知らぬふりで腹の辺りを肘で押すと、ようやく腕が離された。その隙に、素早く抜け出した貴司が布団に目をやると、聖一は、一瞬だけしか覚醒してはいなかったようで、今度は布団を抱きしめ寝息を立てている。その無防備な姿を眺め、慈しむように目を細めてから、アルバイトへ行く準備を始めた貴司には、聖一が、本当は目覚めていることに気づく由もない。

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