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「やっぱり駄目……だよね?」
寂し気に響く声は語尾が震えていて、そのことに、彼が本気なのだと理解した貴司の胸が、ドキドキと大きく脈を打ちはじめた。
勿論、貴司だって聖一のことは好きだ。今まで出会った誰よりも身近で、離れるのが怖くなる位、自分の中での彼の存在は日に日に大きくなっている。だけど、それはキスをしたいなどと思うような感情ではなく、そうしたくなるような感情であってはならないことを知っていた。
「困らせて……ごめんなさい」
降りてきた謝罪と同時に、掌が口から退かされる。
「間違えてるって分かってる。だけど、貴司さんが遠くに行っちゃっうかもしれないって思ったら、どうしても……伝えたいって思って」
絞りだすように告げられた言葉に、胸が締めつけられるような感覚に陥った。聖一が、ここまで感情を露にするのは初めてで、きっとそれが今の本当の気持ちなのだということが、痛い位に伝わってくる。だけど。
「セイ……ありがとう、俺もセイのことが好きだよ。弟みたいに、本当に大切に思ってる。きっとセイは、勘違いしてるんだ」
慕う気持ちと恋愛感情を混同しているのだと、穏やかな声音で貴司が告げると、聖一は大きく首を横へと振る。
「僕はまだ、貴司さんから見たら子供かもしれないけど、自分の気持ちを間違えたりしない」
言い募ってくる彼の表情はよく見ることができないけれど、その声音は真剣だった。それゆえに、大切に思っているからこそ、返す言葉が見つからなくて貴司は言葉に詰まってしまう。男同士だからだとか、聖一がまだ中学生だからとか……そんな、分かり切った一般論を今の彼に伝えてみても、この状況では白々しく思われてしまうことだろう。
彼が想いを口にするにはかなりの勇気を要したはずだ。それを想像しただけで、貴司は胸が苦しくなる。この状況でどう答えたら良いのかなんて、正直全く分からない。だけど、このまま沈黙を続けていたら、聖一が悪い方へと思考を向けてしまいそうだと思った。
「セイが今、そう思ってくれていること、迷惑だなんて思わない。俺は、セイをそういう風に見たことないけど、セイがそこまで思ってくれて嬉しいと思う」
大切な彼を傷つけないよう、だけど嘘は吐かないように貴司は懸命に言葉を紡ぐ。
「……ほんとに?」
「ああ、だけど、今は俺といることが多いからそう思うのかもしれない。これから、セイには沢山の出会いがある。その中で、俺よりも好きな人が、きっとできると思うから」
当たり障りなく、極力自分が傷つかないよう今まで貴司は生きてきたけれど、今告げられた聖一の真っ直ぐな気持ちには、きちんと向き合わなければならないと思っていた。
向き合って、彼を正しい方向へと、導かなければならない……と。
「できなかったら?」
納得ができないのだろう、少しだけ首を傾げて尋ねてくる聖一に、『それは絶対にない』と思わず言いかけた貴司だけれど、どういう訳か自分なんかを好きになってくれた聖一を、そんな風に茶化したりしてはいけないと思い口を噤む。
――なんで、俺なんか。
聖一の隣には、可愛らしい女の子が似合っている。そう考えたら何だか急に胃の辺りが重たくなった。
「その時は、俺も真剣に考える。だから今は、こうゆうことは止めたほうがいい」
できるだけの冷静さを装って告げた貴司の言葉に、聖一が小さく息を吐く。
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