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「貴司さんは、僕が嫌い? 気持ち悪いって思う?」 「思わない。好きだよ」  その好きの意味する物は聖一とは違うけれど、こんな風に告白を受けても気持ち悪いとは思わない。 「じゃあ……高校生になっても気持ちが変わらなかったら、貴司さんは僕の気持ちを認めてくれる? 真剣に考えてくれる?」 「ああ、その時はセイとのこと……ちゃんと考えるよ」  後から思えば酷く浅はかな返事をした。けれどその時は、僅かながら穏やかになった雰囲気のなかで貴司もつい気持ちが緩み、深く考えもしないままそう口にしてしまったのだ。  県外へと就職して疎遠になってしまったら、聖一はきっと自分を忘れる。  淋しいけれどそれでいい。彼が道を踏み外さないで成長していけるのならば。  感傷的な考えに深く浸っていると、ふいに、胸の上へと掌を置かれた。 「貴司さん、ドキドキしてる」 「セイが……ビックリさせるからだ」  鼓動の高鳴りを知られてしまったのが恥ずかしく、少しだけ責めるような口調で言葉を返せば、聖一がクスリと笑う声がする。 「驚かせて……ごめんなさい」  言いながら、顔を近づけた聖一の意図に貴司が気づいた時にはもう……唇へと柔らかい物が触れていた。 「んっ!」  驚いた貴司が聖一の胸を押し退けるよりも速く、唇はスッと離れていく。  それから、貴司の腹の上から退いた聖一は、腕を伸ばして電気を点けた。暗かった部屋は明るさを戻し、貴司は明るい光に瞳を眇めるけれど、戻ってきた視界の中に聖一の姿を映した途端、頬のあたりが熱くなる。 「セイ、お前! 人の話聞いてないだろ」 「聞いてた。高校生になるまで待てばいいんだよね」 「そうじゃなくてっ」  どうにも上手く伝わらなくて、半ば諦めたように言葉を切った貴司の耳へと、「分かってる」と、小さく答える聖一の声が入ってきた。  聖一は聡い。  いつも、こちらの気持ちを必要以上に読み取ってしまう聖一に、「気を遣うな」と貴司が言うのが常だった。だけど、今日は貴司が制止をしても、最後まで主張を曲げなかった。  自惚れかもしれない。けれど遠回しに『駄目だ』と伝えていることを理解していても尚、彼が自分とキスをしたかったのだと思うと、貴司は胸が詰まるような、むず痒いような、言いようのない気持ちに包まれる。 「貴司さん、顔、真っ赤だよ」 「そ、それは、セイがっ」  事の張本人である聖一から受けた指摘に、情けなくもうろたえながら「お前のせいだ」と答えた貴司は、目の前にある彼の顔へと笑みが戻っていることに、内心とても安堵していた。

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