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「違う。俺は、迷惑だなんて思ったことは……ない」
嘘を見抜かれていた事実に、シクリ……と胃が痛み出し、体がフラフラと揺れ始める。
「貴司さんは、優しいね」
「優しくなんか……」
「優しいよ」
動揺のあまり、言葉と共に抱きしめてきた聖一の腕を振り払うこともできなかった。
自分は大人で相手は子供なのだから、しっかりしなければならないのに、こんなんじゃ、駄目だと分かっているのに。
――いつから俺は、こんなに弱くなったんだろう?
常に一人だった。それを淋しいと思ったことはあるけれど、それでも一人でいいと信じて今までの短い人生を生きてきた。
初めてだった……誰かに必要とされたのは。真っ直ぐに『好き』だと告げられて、混乱したけど嬉しかった。だけど、人の気持ちに正面から向き合ったことがなかったから、どうしたら良いのか分からず臆病になってしまった。聖一のことを本当に思っているのなら、あの暑い夏の夜、きちんと突き放せば良かったのに、それができなかったのは自分の弱さのせいだ。
最初は恐々だったけれど、いつのまにか彼の温もりが傍にあることに慣れてしまった。いけないことだと分かっているのに手放せなかった。どうしても、失いたくなかった。
「貴司さんは、嘘が下手だよ」
噛み締めるように告げられた言葉に、その通りかもしれないと貴司はぼんやり考える。いくら大人びているとはいえ、中学生の聖一に見抜かれてしまうくらいだから、自分は本当に嘘が下手なのだろう。
「……ごめん」
そのせいで彼を傷つけてしまったことへの罪の意識に苛まれ、貴司はもう掠れた声で謝ることしかできなかった。胃の中をギリギリと強い痛みが襲い、抑え切れずに体がガタガタと震え出す。
「どうしたの? ……貴司さん!」
異変に気がついた聖一が、驚いたような声を上げるのをどこか遠くで聞きながら、冷や汗が背中を伝う感触に貴司の体が総毛立つ。何日も前から今日のことをシュミレーションするのに精一杯だった。だからろくに食事も摂れず、眠ることもままならなかった。
「……大丈夫、なんでもない」
必死に紡いだ自分の声が、頼りなさ過ぎて我ながら情けなくなる。極度の緊張に疲れが加わり、更に嘘を見抜かれたことで一気に押し寄せた罪悪感に、何度も吐き気をもよおしながらもどうにか堪えていた貴司だが、これ以上は立っているのも困難だった。
「貴司さん?」
心配そうな聖一の、焦ったような声が耳許から聞こえたのが最後の記憶。
その後に訪れたのは静寂と、暗闇。
次に意識を戻した時には既に場所が変わっていて、二人で過ごしたアパートでの楽しかった思い出は、最後になってお世辞にも綺麗とは呼べない物になってしまった。情けなく動揺した自分のせいで。
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