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彼が初めて見せた表情が、苦しくて、切なくて。
『わかった。一年後、必ずセイに会いにくるよ』
無責任な約束。悲しい顔をさせたくない。ただそれだけしか考えられずに思わず口から零れた言葉は、聖一の表情を少しだけ穏やかにした。
その時は、一年も会わないでいれば、また兄弟のような感覚で会えるだろうと思っていたが、それは大きな間違いだった。
「あ、ああっ、やぁ……」
自分の上げる媚びた喘ぎがどこか遠くに響いていて、目の前の景色はぼやけ、心許なく揺れている。胸の尖りへと通されたピアスを引かれたり、クルクルと回されたりする度に、下腹の奥が切なく疼いてもどかしい熱が何度も何度も貴司の中を駆け巡った。
「も…やめっ……あぁっ!」
ぼんやりとした意識の中、快感を得た前立腺と乳首だけが、やけにリアルな熱を持つ。
「このまま、イッちゃっていいよ」
ふいに、耳をペロリと舐めた聖一の蕩けるような甘い声音が鼓膜を揺らし、乳首から離れた彼の右手がペニスの先をツンとつついてきた。途端、貴司の指が救いを求めるかのように、無意識の内に前へと伸びる。
「やあっ…んっ……ああぁっ!」
たったそれだけの刺激によって激しい愉悦が背筋を突き抜け、ビクンと大きく震えた貴司の瞳からは、とうとう涙が零れはじめた。
***
「……うぅっ」
体の中から長大なペニスがズルリと引き抜かれた途端、排泄感に貴司の口からは呻くような声が漏れる。前立腺と乳首とペニスの先端へのわずかな刺激で、あっけなくも達してしまった貴司の体を、聖一はその後も手放してはくれなかった。
「……んぅ」
その精を受け止めるまで散々に揺さぶられたため、貧血を起こしたみたいにふらついている貴司はそのまま、前のめりにベッドの上へと力なく倒れ込んでしまう。
「貴司、大丈夫?」
心配そうに髪の毛へと触れてくる彼の指先を、振り払うだけの気力も今は全く残ってはいなかった。揺られ続けたせいだろうか? 頭が鈍い痛みを覚える。そればかりじゃなく体中の至る所に痛みを感じ、指一本動かすことさえ今の貴司には困難だった。
「喉、渇いたよね。なんか飲む物、取ってきてあげる」
頭上から響く声は、どこか寂し気に空気を揺らし、悪いことなどしていないのに貴司の胸はチクリと痛む。だけど、こんな状況では返事なんかできないから、少しでも痛みを和らげるために浅い呼吸を繰り返していると、遠ざかっていく足音と、ドアがパタリと閉まった音がやけに大きく聞こえてきた。
――そういえば……まだ顔を見ていない。
ふと、閉められたドアの方向へ、視線をゆっくり向けた貴司は、目覚めてから聖一の顔を見ていないことに今更ながら思い至る。考えてみればセックスの時、きちんと彼の顔を見たことなど、数えられるくらいしか貴司には思い出せなかった。
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