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第二章
「……ん」
深い眠りから目覚めた途端、体の節々に痛みを感じる。かたわらにあったはずの温もりはもうすでに消えていて、遮光カーテンの隙間から差し込む陽の光が、貴司に今が昼間であることを伝えてきた。
この部屋に囚われてから何日かが経過したのは確かだけれど、貴司にはもう時間の流れがよく分からなくなっている。大抵は、広いベッドで目を覚ますと、聖一は学校へと行ってしまった後で、夕方になると制服姿で部屋へ戻ってくる彼を、無言で迎えるのが日常になっていた。
「くっ……うぅ」
何とか重たい体を動かしベッドから床へ立ち上がると、傍目に見ても分かるくらいに貴司はフラフラ歩き始める。足首へと嵌められている枷からは細い鎖が伸び、たぶん、このためだけに床へと取り付けられた金具へと繋がれているが、思ったよりも長さがあるから、部屋を出て、リビングを過ぎたトイレまでは移動ができた。
途中通過するダイニングのテーブル上には、いつものように食料が用意されていて、トイレから戻った貴司はそこで一旦足を止めると、暫しの間それを見つめる。
本当は、食欲などは皆無だから、毎日のように苛まれている自分の体を、聖一が学校から戻るまでの間に休ませておきたい、というのが貴司の本音だ。だけど、食べなければ酷い目に合うことことはよく分かっている。
「……クソッ、なんだっていうんだ」
小さく毒を吐きながらも、椅子へと腰を下ろした貴司は、皿からラップを外してから、それでも一言「頂きます」と頭を下げてそれらへ手を伸ばす。冷えたフレンチトーストは、口へと含んだ途端に舌が拒絶反応を示したため、なんとかそれを飲み込んだだけで残りはそのまま皿に戻した。それでもどうにかヨーグルトだけは全て胃の中に納めると、ポットのコーヒーをカップに注いでそれをゆっくりと飲み込んでいく。
――いつか、終わるのだろうか?
こんな、非日常的な生活が、長く続くはずはないと思いたい。何よりも、抱かれるだけの生活に、以前みたいに慣らされてしまうことが一番怖かった。
――このままじゃ、前と同じだ。
焦りにも似た気持を抱き、それをどうにもできない自分に対する憤りが大きくなる。
疲れた体を休めたいけれどベッドの上には戻りたくなくて、逡巡の末、リビングのソファーへ腰を下ろすと、貴司はぼんやり窓の外へと視線を移す。
開けられないよう内側から南京錠が掛かっているから、ベランダへと出ることは無理だが、以前窓際へ行った時には、ここが以前の場所とは違う、だけどマンションの上層だということが分かった。だけど、だからと言って何ができる訳でもない。
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