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 一年経ったら会いに行くという約束を、果たさなければと思いながらも、彼に会うだけの勇気も持てない。  そのうち、夢にまで見るようになった。  聖一と過ごした時間や会話、そして、たった一度だけ交わした彼とのキスを。  再会した聖一がもし、貴司のことをまだ好きだと言ったなら、今度はちゃんと断ち切れるだけの自信もなく、逆に、成長した彼がすでに約束のことを忘れていたら……多分、その可能性が高いだろうし、貴司もそれを望んでいるはずなのに、考えただけでなぜか胸がジクジクと痛み出す。  結局、会いに行かなかった。  連絡先は一切教えていないから、聖一とは、同じ日に同じ公園で会う約束しかしていない。もしかしたら、待っているかもしれないけれど、行かないほうが良いと思った。  待っているなら来ない貴司に愛想を尽かすに違いないし、忘れているならそれでいい。そう自分に言い訳をして、振り切るために仕事へと没頭する毎日を過ごしていた。  そんな貴司に大きな変化が起こったのは、約束の日を二ヶ月以上通り越した六月のことで、少しでも自分を変えようと、同僚からの飲み会の誘を珍しく受けた貴司は、そこで一人の女性から、積極的なアプローチを受けることになる。  紗英という名の女の子が、どうして自分みたいな平凡で面白味もない人間に興味を持ったか分からなかったが、もしかして、他の誰かを好きになれたら、前へと進むことができるんじゃないかと貴司は思ってしまった。  たがら、飲み会の後、誘われるままに何度か二人で会ったあと、「付き合って欲しい」と言われて迷いながらも頷いてしまい、結果貴司は間違いをさらに重ねてしまうことになる。  彼女は二つ年上で、割と可愛い印象だった。主導権は紗英が持ち、貴司は優しくそれに従う。付き合っていることは誰にも言わないで欲しいと言われ、そのことを同僚にすら言えなかった貴司だけれど、甲斐甲斐しいと思えるくらいに世話を焼いてくれる彼女を、おかしいと思ったことはなかった。  何より、彼女と一緒に過ごしていると、その一時は聖一を忘れることができる。けれど、忘れていたことに気がつき、思わずハッとしてしまうくらい、いつでも彼を想っていたのだということに、この時の貴司はまだ思いが至っていなかった。

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