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「久しぶり……元気だった?」  他には掛ける言葉が見当たらず、何とか笑みを浮かべた貴司は、テーブルの向こう側に座る聖一へと、戸惑いがちに声を掛けた。 「元気だったよ」  それに答える大人びた声に、少しの違和感を覚えた貴司は、何だかとても落ち着かない気分になる。 「素敵な店だね。良く来るの?」 「いや、前に一回来ただけ。俺は大体家で食べるから」  緊張して上手く話せない貴司を見つめ、聖一が口端を上げてクスリと笑った。  洒落たアジアン風のダイニングキッチンは、暗めの照明と、席の間を仕切っている大きな布が、エキゾチックな雰囲気を醸し出していて、時折誰かが大きな声で話しているのが聞こえるけれど、普通の声で話していれば周りが気にならないような、個室みたいに落ち着ける空間になっていた。普段外食をしない貴司がこんな店を知っていたのは、前に紗英と訪れたことがあったからで、そうでなければどこへ行けばいいか分からずに、聖一に更に情けない姿を晒していただろう。  気に入って貰えたことにほっと息を吐きながら、貴司は心の中で少しだけ紗英に感謝した。 「会社は、忙しいの?」 「そうでもないよ。大分慣れたし、今の時期はそんなに忙しくない」  何気ない話題を振ってくる聖一へと言葉を返し、メニューを見ているふりをしながら、チラリと彼へ目をやると、髪の毛が少し伸びて以前より大分大人びた印象になっている。そして、彼の左の耳朶に、幾つかのピアスを見つけた貴司は、僅かに目を見張ったけれど、それについては何も言わずに極力普通に振る舞った。  以前のようにポツリポツリと会話を続け、運ばれてきた料理を食べた聖一の「美味しい」という声に軽く頷きを返しながらも、緊張のせいで料理の味など全く以って分からなくて……それでもどうにか半分程を口に運んだ貴司だけれど、それ以上は胸が詰まって食べることができなかった。 「ごちそうさま」  結局、食べるのはもう諦めて、箸を皿へと置いた貴司が聖一の方に顔を向けると、こちらを見ていたらしい彼と、正面から視線が絡む。  ――ちゃんと、謝らないといけない。  真っ直ぐこちらを見つめる彼の色素の薄い澄んだ瞳に、貴司の心臓は早鐘のようにドクリドクリと脈を打ち始めた。会いに行かなかったことをまず詫びて、聖一がここにいる理由を尋ねなければならないのに、口に出すのがとても怖い。  ――俺が、ちゃんと言わないと。  彼が自分に気を使ってくれているのは分かっていた。これではどちらが大人なのだか分からないと貴司は思う。久しぶりの再会から続いている、お互いの距離を計るような不思議な時間を終わりにするには、自分がまず、彼にきちんと謝罪しなければならないのだ。

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