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片手で鍵を開いた貴司が、少し声を荒げて言うと、玄関に入ったところでようやくその手が離された。ホッと一息つくのと同時に解放された左腕が、ジンジンと痺れたように痛みだす。それを右手でさすっていると、
「お邪魔します」と言った聖一がそのまま部屋へと入ってしまい、貴司は慌ててその後を追った。
「前より広い。それに綺麗」
部屋を見回しながら聖一が言った言葉に、「物がないから」と答えながらも、自分の部屋に彼がいることに、かなりの違和感を覚えてしまう。見える場所にはテーブルとテレビとベッドしか置いてない殺風景なこの部屋が、今の彼には不釣り合いなものに見えた。
目の前にいる聖一は、外見も纏う雰囲気も、以前とは違うように見える。今風というのだろうか? 着ている服は以前と変わらず清潔そうでシンプルな物だが、髪の色は自然な焦げ茶から赤みのかかった茶色へと変わり、耳にはピアスも開けている。
――不良って訳でもなさそうだけど。
話し方や物腰は昔とあまり変わらないから、高校生になって色々とやってみたいだけなのかもしれない。そういえば、結局流れで部屋へと入れてしまったなどと、考えながらもぼんやりと立ち尽くしている貴司へと、聖一が「夕飯、ご馳走様でした」と、声を掛けてくる。
「いや」
礼を言われても上手く言葉が返せないのは、突然帰ると言い出した彼の真意が分かっているからなのだが、できることならばそのことに、今は触れて欲しくない。
「ケーキ、まだ食べられるかな?」
手にしていたケーキの箱をテーブルの上へ置いた聖一が、膝立ちになってその中身を覗いている様子を見て、とりあえずは店でのことに触れる気はないようだ……と、貴司は内心ホッとした。
「無理だろ」
落とした上に、きっともう保冷剤など何の役にも立っていないはずだから、食べるのは無理だろうと思った貴司がそう返すと、聖一がこちらに向かって手招きをしてくる。
「まだイケそうかも、貴司さん、ちょっと見て」
その姿があどけなかった以前の彼を彷彿とさせ、緊張を緩めた貴司はクーラーのスイッチを入れて、それから彼の斜向かいに膝立ちになって箱の中身を覗き込んだ。
「ん……これならイケるかも。とりあえず冷蔵庫にでも入れてみるか?」
驚いたことにケーキは一応原形を留めていた。冷蔵庫で少し冷やせば食べられるかもしれないと思い、貴司がそう尋ねると、聖一がコクリと相槌を打つ。雰囲気は変わっても、ふとした仕草は以前と全く変わらないから、そんな姿に後押しされて、貴司はようやく言えなかった一言を、声に出すことに成功した。
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