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「そう」  少し不満気な聖一の声にゆっくり視線を前へ向けると、微笑む彼の唇の端が更に上へと引き上げられた。 「良かった、過去形で。あんな女、貴司さんには相応しくない」  そう言いながら、首筋へ顔を埋めてきた聖一に、貴司の心臓はありえないくらい大きく音を立てはじめる。 「俺のこと、真剣に考えてくれるって言ったよね。俺、ずっと待ってた。貴司さん、来るって言ったから」 「ごめん」 「謝らなくていい、俺はもう決めたから。絶対、貴司さんを手に入れるって、だから……」 「うぅっ!」  カプリと首へ歯を立てられ、痛みに貴司の体が跳ねた。 「止めろ!」 「止めない。貴司さん、俺のこと好きって言ったよね」 「それは……弟みたいにって意味で」  恋愛感情ではないのだと貴司は必死に言い募るけれど、聞き容れてなどもらえない。 「貴司さんは嘘つきだから、俺はそんなの信じない」 『嘘つき』  そう言われてしまったら、貴司には返す言葉もない。  正しいと思っていた。全て聖一のためなのだと……だけど、それは間違いだったのだろうか?  彼の想いがこんなに深い物だなんて、想像もしていなかった。 「俺は、貴司さんが欲しい」  ゆっくりと顔を上げた聖一の表情は、これ以上なく真剣で、貴司の体は意思とは逆に小さくカタカタと震え始める。  ――このままじゃ……ダメだ。  抵抗しなければならないことは、頭の中では分かっている。だけど、湧き出してきた感情は、自分自身にも不思議な類のものだった。 「セイ、止めるんだ。お前とのこと、真剣に考えるから……だからっ」 「嘘、またそうやって逃げるんだ」  とりあえず彼を落ち着かせ、冷静に話したほうがいいと考えた貴司だが、告げようとした言葉は途中で聖一に遮られる。 「違う、逃げたりなんか……っ!」  必死に紡いだ反論は、股間を膝でグッと押されて声にならない悲鳴へと変わった。 「弟みたいな相手にキスされたくらいで、貴司さんはこんな風になっちゃうの?」 「……ちがう、これは……ちがう」  下着の中、僅かに形を変えてしまったペニスをグリグリと膝で刺激され、そこでようやく自分の異変に気づいた貴司は、動揺の余り弱々しく首を振ることしかできない。

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