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「貴司さんを想いすぎて、俺、おかしくなっちゃったみたい」
困ったように囁きながら、鼻を離した彼の指先が髪を優しく抄いてきて、この機を逃さないように、貴司は必死に肩で息をする。
――何が、セイを……。
こんな風に変えてしまったのか? 回らなくなった頭で貴司はぼんやりと考える。少なくとも、以前の彼はこんなことをするような人間ではなかった。
――俺のせい……か。
彼の言葉を思い返せば、はっきり答えを出さないまま逃げてしまった自分のせいで、彼はここまで思い詰められてしまったのだろう。
一年以上の時を経て、彼の想いの深さを知り、『自分が吐いた嘘のせいで、今聖一は苦しんでいる』と思い至った貴司の胸は、えもいえぬ重たい気持ちに支配された。切なさにも似たこの感情を何て呼べばいいのだろう? その答えを知っているような気がするけれど、与えられる刺激が段々強くなってきて、結果思考は途切れ途切れになってしまう。
「弟みたいにって貴司さんは言うけど、それは違う。貴司さんは、そう思い込もうとしてるだけだ。だって、ほら」
下着の中まで入り込んできた聖一の指が、貴司のペニスを優しく掴んでそれを緩く扱き始めた。
「好きでもない相手に、こんな風にはならない」
「んぅっ……んうぅっ!」
直接的なペニスへの刺激に、貴司の体が何度も跳ねる。
――そうなのだろうか?
刷り込みに近い彼の言葉を信じてしまいそうになるくらい、貴司の体は愉悦に追いつめられてしまい、とめどなく与えられる愛撫にもはや抗う術もない。仰向けになった体の下へと入り込んだ両腕は、痛みを通り越し感覚がなくなってしまっていた。
「俺が怖い?」
一旦全ての動きを止めた聖一からの問い掛けに、戸惑った貴司は彼を見る。自嘲気味な微笑みは、今までに見たどんな表情より人間味を帯びていて、感情を滅多に見せない聖一のそんな表情に、一瞬昔のあどけない彼の顔が重なったように見えた。
――怖い……わけじゃない。
他に伝える方法もないから、貴司はゆるゆると首を振る。
「嘘」
こんなに酷い状況なのに、眉尻を少し下げた聖一がなんだかとても頼りなく見えて、貴司は腕を伸ばしたいような不思議な衝動に強く駆られた。
――嘘じゃない。
伝える手段がないことがかなりもどかしい。それでもどうにか分かって欲しくて聖一の顔を見つめるけれど、上手く伝えられるはずもなかった。
「そんな顔しても、止めてあげない」
彼から見た自分がどんな顔をしていたかは知りようもないけど、何か勘違いをされてしまったことだけは、はっきりと分かった。表情を消した聖一が、「もう……戻れない」と、小さく囁く。伝わらないもどかしさに、体を揺らした貴司の額へキスを一つ落としてから、聖一は立ち上がり、視界の外へ消えてしまった。
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