54 / 96

17

「んっ…うっ…んんぅ!」  ――ダメ……だ。  彼の掌に精液を吐き出すなんて出来ないと、口内にある濡れたハンカチをグッと噛み締め、快楽を逃そうとするが、そんな貴司の気持ちまでもを見透かしたように、聖一は尿道口へと親指の爪を立ててきた。 「っ!……うぅっん!」  先端をグリグリと痛い位に刺激され、たまらず呻いた貴司のペニスは、次の瞬間生温かい濡れた感触に包まれる。  ――な……なに?  瞳に映る信じられない光景に、一瞬理解が遅れたけれど、聖一の口に自分のペニスが含まれていると直ぐに分かって、驚きの余り貴司はそこから目が逸らせなくなってしまう。咥えたまま、上目遣いでこちらを見つめる聖一は、その瞳にはっきりとした欲情を滲ませていて……すぐに始まった巧みな口淫に、貴司の体は否応なしに高みへと追い込まれた。 「ん――っ…ん、うぅっ!」  カリの括れをしつこい位にクルクルと這った彼の舌先が、尿道口を抉るみたいに動かされ、同時に強くペニスを吸われて貴司の体がビクッビクッと弓なりに大きくしなる。 「う……うぅっ!」  大腿をしっかりと抑え込まれてしまっているから、逃れることもできないままに、貴司はとうとう彼の口内へ白濁を吐き出してしまう。そして、射精の余韻に飲み込まれ、肩で大きく息をしながら、放心してしまった貴司は動くことができなくなった。  コクリと喉を鳴らした聖一が薄い微笑みを浮かべる姿が、ぼんやり開いた貴司の瞳に映り込む。 「ご馳走さま」  指をこちらへ伸ばした彼が、軽く顎へと触れた途端、貴司の視界がグニャリと歪んだ。 「俺のこと、嫌いになった?」  抑揚なく尋ねる声音がどこか冷たく響いてきて、目の奥のほうがツンと痛むが、それが感情を押し殺している声なのだと、根拠はないけど分かってしまう。自分の精液を飲まれてしまった衝撃も大きかったのだけど、達してしまった貴司の頭は妙に静かになっていて、突然のことに抗うことしか考えられなくなっていたけれど、だからといって聖一のことを嫌いになどなれなかった。  ――なれるはず……ない。  途中から伝わってきた彼の強い覚悟を思い、貴司はゆっくりと首を振る。方法はかなり間違っているが、聖一はいつも真っ直ぐ気持ちをぶつけてきた。  ――俺だって、会いたかった。  会いたくてたまらなかった。聖一と一緒にいたいとこの一年、貴司はいつも思っていた。 「泣かないで」  聖一の指に目許を掬われ、自分が涙を流しているのに貴司はようやく気がついた。 「っ……んぅ」  息が苦しい。色々なことについていけずに、いい年をして泣いてしまった自分が本当に情けない。なんとか涙を止めようとして必死に呼吸を繰り返すけれど、まるで涙腺が決壊したかのように次々と頬を伝い落ち、彼の掌を濡らしていく。どうしてこんな良いところのない、平凡な自分なんかを彼が好いてくれるのかが分からない。

ともだちにシェアしよう!