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「痛っ」  強く噛まれたわけしゃないけれど、いきなり首を襲った痛みに、貴司はたまらず聖一の背をドンドンと掌で叩く。 「俺のモノになるよね」  チュウッと首へと吸いついてから、顔を離した聖一が、今度は貴司を覗き込むように顔の下から見上げてくる。モノという彼の言葉に違和感を持った貴司だが、ここまで来たらもう嘘なんて吐けなかった。 「なるよ」  掠れた、弱々しい声が出る。聖一は、頷くだけの返事をすると、貴司の髪から指を離して背中を強く抱き締めてきた。 「……っい!」  息苦しさに声を上げるが、取り合ってなど貰えない。だから、体が軋むような締めつけを震えながらも貴司は必死に受け容れる。  暫くの間そうしているとふいに力が緩められ、ホッと力を抜いた貴司は聖一の顔が見たいと思ってゆっくりと顔を上げた。 「んっ」  するとその時、不意打ちのように動いた彼の手が貴司のアナルをノックしてくる。 「っ!セイ、お前、なにを……」  驚きに瞠(みは)った瞳へと映り込んできた聖一の顔は、今の状況には不釣り合いな優しい笑みを浮かべていた。 「俺のモノになるってことは、ここで一つになるってことだよ?」 試すような聖一の言葉に、貴司の背筋が凍りつく。 「そんな……ことは……」  男同士のセックスが、そこを使って行われることを知識としては知っていた。だけど、今の貴司にそこまでできる覚悟はなかった。 「嫌って言っても駄目。もう決めたことだから」  貴司の迷いを見透かしたようにキッパリと告げる聖一の、綺麗な色の瞳の中に吸い込まれそうになってしまう。  ――嫌なんかじゃない。  見つめ合う内、頭の中へ自然と浮かんだその言葉に、動揺して思わず視線を下げてしまった貴司だが、それが偽りのない本心だとようやくはっきりと自覚できた。もはや誤魔化しようもない。聖一が、本当に自分をセックスの対象として見ていたことに驚いているし、未知の領域へ踏み出すことへの不安は勿論あるけれど、自分の気持ちを認めてしまえばこれから先、どんなことをされたとしても嫌いになんてなれそうもない。  それだけ、貴司の心の深い場所に、聖一は入り込んでしまっているのだから。 「いいよ、セイの好きなようにして」  それは貴司にとっては紛れもない告白だった。こんな、中途半端な言い方しかできないけれど、受け入れることで聖一には十分に伝わると思っていた。

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