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「本当に、貴司さんは……」
それに答える彼の言葉の語尾が貴司には聞き取れず、尋ねてみるが、首を左右に振られてしまう。
「俺、貴司さんを離すつもり……ないから」
この時貴司は、聖一の中の不安や迷いを拭いきれたと思っていた。
「んっ……あぅっ!」
きっと最初から、鋏と一緒に用意をしていたのだろう。横合いから取った油を纏わせた彼の長い指が、ゆっくりとアナルの周りを解すように、クルクルとそこを撫でまわし、ツプッと中へと入ってくる。
「くっ……ん、うぅ」
「力、抜いて」
優しい声が鼓膜を揺らすが貴司にはもう余裕がなくて、聖一の背へ回した指を何度も何度も握り締めた。
「好きだよ、貴司」
囁く声に体が跳ねる。
――俺も……。
頭に浮かんだその言葉を、音にすることはできなかった。
好きだから受け入れる。だけど、聖一を縛っちゃいけない。初めての行為中ずっと、貴司は自分の心へと、必死にそう言い聞かせていた。
矛盾しているのは良く分かっている。だけど、捨てられるのが怖いから、無意識のうちに自分の中へと逃げ道を用意した。そうしないと不安でたまらなかったのだ。
だから必死に暗示をかけた。一緒にいるのは、彼が自分に飽きる日が来るまでだと。
それから、脚の拘束を解かれた貴司は、初めてアナルを貫かれる痛みに耐え、その行為に快楽を見出せるようになるまで、容赦のない彼のセックスは続けられた。
「やっ……あっ、あぁ…ん」
途中、何度か意識が飛んでしまったが、その都度聖一に揺り起こされ、最後にはもう何が何だか解らなくなって、掠れた喘ぎと懇願だけしか出せなくなる。
「やめて……もう、出ない」
まだ前立腺への刺激だけでは射精できない貴司のペニスは、聖一の手に扱かれ過ぎて痛みを感じてしまっていた。
「まだ出せるよ」
後背位で貫いたままの聖一の指が陰嚢へ伸び、そこをコリコリ強く揉まれて、貴司の体が痛みの余りビクンビクンと大きくのたうつ。
「お願い……セイ、痛い……やっ……止めっ!」
いきなり強く突き上げられて、貴司の手が宙を舞う。それでも止まない激しい動きに徐々に意識は白んでいき、もう駄目だと思った刹那、腹の中へとじわりと熱が注ぎ込まれ、衝撃で貴司のペニスから少量の精液が零れた。
「貴司さんの中、気持ちいい」
放出が終わった後も聖一はペニスを挿入したまま、貴司の耳元で何度も『好き』と繰り返す。首筋に、チュウッと吸いつかれる度に、甘い痛みで体の芯が熱くなった。
「俺のだ」
囁く声に『何かが違う』と思ったけれど、乳首へと伸びた聖一の指に尖りをキュッと引き伸ばされて、そこから生まれた新たな疼きに貴司はたまらず薄い身体を大きく反らせて身悶えた。
「あ……やっ……やぁっ!」
そんな所が感じるなんて考えたこともなかったけれど、芯を持った突起は既に聖一によって創り変えられてしまっていて、引っ張られた状態のまま先端部分を撫でられるだけで、えも言われぬ愉悦が体を突き抜ける。
「ずっと、ずっと、一緒だよ」
「分かった、分かったから、お願い……もう」
耳へと入る甘い声に、貴司が何度も頷きかえすと、顎を掴まれ顔だけ後ろに振り向かされてキスをされた。
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