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「そんなヤラシイ夢、見てたんだ」
「うるさい」
――あんな夢を見たせいだ。
本当は、お前のせいだと言ってやりたい。けれど、余裕有り気に微笑む顔を見た途端、それを言ったら何をされるか分からないと思った貴司は唇を噛む。
「そのままじゃ、辛いんじゃないの?」
「そのうち、治まる」
だから、放っておいて欲しいと貴司が表情で訴えかけると、聖一は一瞬だけ考えるようなそぶりをした後、何か良いことを思い付いたかのように口角を吊り上げた。
「ここで、自分でそれを処理したら、今日は何にもしないっていうのはどう?」
「お前……何を言ってるんだ」
「だから、貴司がここでオナニーしたら、今日は何にもしないって言ってるんだけど」
「そんなこと、できるはずないだろ」
そんなことをするくらいなら、セックスの方がいいと考えてしまった貴司は真っ赤になり、その様子にククッと喉を鳴らした彼が、その手で頭を撫でてくる。
「前は、何でもしてくれたのに」
「そんなこと、ない」
確かに、付き合うことを決めた当初は、聖一が望む全てを貴司は受け入れようとした。だけど、オナニーをしろと言われたら、流石に断っていたはずだ。
「ご飯、冷めちゃうから、トイレ行っていいよ」
もしかしたら、ここでこのまま行為に及んでしまうのでは? と危惧したが、どうやらそれはなさそうだから、貴司は安堵の息を吐きだして、聖一の気が変わらぬ内にと慌ててそこから立ち上がり、トイレへと向かって歩き出した。何をするかを知られていても、見られない方がもちろんいいに決まっている。
――何を、考えてる?
夢に見た頃の聖一は、やり方はどうであれ、いつも貴司に伝わるように気持ちを真っ直ぐぶつけてきた。だから、赦せた。
最初体を貫かれた後、近所の目が怖くなって、引っ越すことになったことも、週末になると訪れる彼に夜通し体を求められても。
――あの時だ……あの出来事が、彼をきっと狂わせた。
前回、聖一によって突然監禁された時から、時折胸を苦しめてくる自責の念。それを解決できる答えを今の貴司は持っていない。向き合おうにも何をどうしていいのかさえ、貴司には分からなかった。
――ダメだな。
『分からない』と言うばかりでは状況なんて変わらない。
ふいに視線を下へ向けると、勃ちあがっていたはずのペニスは既に常へと戻っていて、落ち着いてきた貴司は今度こそきちんと話をしようと決めた。
『貴司は、彼のことが好きなんだね』
突然、頭の中に響いたのは、半年間、一緒に過ごした人の言葉。彼は、貴司にとって初めてできた友人といえる相手であり、様々なことを相談できる兄のような存在で。
「……アユ」
名前を小さく呟きながら貴司は視線を前へ向け、強い決意を示すかのように掌をキュッと握り締めた。
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