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 机上に置かれた写真を見ながら貴司は指を握り締めた。そこには、制服を着た聖一と彼が寄り添っている姿がある。ただでさえ、彼の話に混乱しているのに加え、彼の話が正しければ、聖一にとって貴司はただの浮気相手ということになる。  確かに、平凡な自分なんかより、きっと彼の方が断然聖一に似合う容貌をしているとは思うけれど、それを決めるのはこの場合、貴司の方ではきっとない。 「本城さん……でしたっけ? 僕は今まで聖一の浮気にずっと目をつぶってきました。たけど、浮気されるの本当に辛いんです。だからもう、聖一とは会わないで貰えませんか?」 「だけど、それを決めるのは、セイなんじゃないのかな?」 「本城さんが会わないって言えば、全て上手くいきます。あとは僕が何とかしますから……貴方だって嫌でしょう? 自分が浮気の相手なんて」  大きな瞳を潤ませてながら言い募ってくる彼の言葉は、聞いているのが辛くなるくらい必死な色を帯びていた。 「それは、そうだけど」 「だったら……」 「でも、もう会わないっていうのは無理だ。君を疑う訳じゃないけど、まずは本人ときちんと話をしないと駄目だと思う」  仮に彼の言っていることが本当だったとしても、本人に会わないままで別れるなんてできやしない。  週毎にやって来て、自分と過ごす恋人との大事な時間を思い出せば、やはり聖一を信じたいと貴司は強く思ってしまう。それに、いくら彼の話す言葉に説得力があったとしても、今日初めて会ったばかりの相手が言うことを、鵜呑みになんてできなかった。 「へえ……馬鹿じゃないんだ」 「え?」 「お前頼りなさそうだから、お願いすれば聞いてくれると思ったのに……残念」  貴司が言いなりにならないことを悟ったのか、彼の雰囲気が明らかに変わった。言葉遣いもそうだけど、声音がはっきり色を変えた。  今までは涙を滲ませ健気な様子で話していたのに、一変して毒を孕んだ彼の表情に鳥肌が立つ。 「だったら、会えないようにしてやるよ」  一体、彼は何を言っているのだろう? そのあまりの豹変ぶりに、混乱している貴司の前へと携帯電話が差し出され、発信画面になってるそれに訳も分からず首を傾げたその途端、玄関のドアがガチャリと開く音が響いた。

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