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「何?」
そういえば、鍵を閉めた記憶がない。そのことにやっと気づいて玄関へと視線を向ければ、見たことのない若者がぞろぞろと部屋へ上がり込んでいる。
「必要ないかもしれないから、外で待ってて貰ったんだけど……分かってくれないみたいだから、仕方ないね」
「君は、いったい……」
なんだかとても、悪い予感がした。目前にあるディスプレイは発信中から待受画面に変わっていて、いつものように表情の読めない聖一と、その頬へとキスをしている彼の姿が映っている。それを見た貴司の胸は、引き絞られるように苦しくなったけれど、それよりも今は自分の置かれた状況の方が問題だった。
「君の知り合いだよね? 俺、入っていいって言ってないんだけど」
視線を彼の顔へと戻し、努めて普通に貴司は告げたが、意味ありげに微笑むだけでそれに対する返事はない。
「帰ってくれないか?」
今度は彼の背後まで来ている三人へ向けて言ってみるけど、それも素気なく無視された。
「颯、いいのか?」
「うん、いいよ。上手に撮ってあげてね」
「了解。まあまあじゃん」
目の前で交わされる会話の意味が分からない。だけど、男たちが自分へと向ける値踏みするかのような視線に、不穏な空気を肌で感じて背筋を悪寒が這いあがった。
――マズい。
直感的に思った貴司はすぐにそこから立ち上がり、玄関へと走り出すけど、幾らも移動できない内に三人の中の一人の男に捕われた。
「おっと……ダメだよ逃げちゃ」
「離せ」
たぶん二十歳前後だろうか? 颯と呼ばれる少年が、チンピラのように見える彼らを、話し合うために呼んだのだとは思えない。
「大丈夫、大人しくしてれば痛くないから」
「っいっ……止めろ!」
掴まれた腕を捻り上げられ、痛みに顔を歪めながらも必死に抵抗していると、さらに残りの二人が動き、半ば担がれるような形で貴司の体はベッドの上へと投げられた。
「止めろっ……離せ!」
逃げようとして暴れる体を仰向けに抑えつけられて、用意してあった手錠で素早く手首を拘束された挙句、貴司の腕はあっという間に頭上のパイプへ繋がれる。
「……外せ!」
「いい加減、諦めなよ」
それでも何とか抗おうとして体を捩る貴司の耳へ、颯と呼ばれる少年の声が響いてきた。
「こんな……何で?」
「言っただろ? 聖一に会えないようにするって。コイツ等がお前姦して、それをビデオで撮るんだよ」
「なっ……」
冗談だとはとても思えない雰囲気に、信じられない気持ちで貴司は颯の方へと視線を向ける。暴行を受けるかも知れないとは思ったけれど、それが性的な意味だなんて考えてもいなかった。
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