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「コイツ等片つけて、部屋は――」
「はい。畏まりました。――は如何致しましょう」
「荷物はマンションに――て。三十分で――」
「承知しました」
――何の話を……してるんだ?
この部屋に、聖一以外の誰かが入って来たことだけは分かったけれど、頭の中がぼんやりとして上手く思考が纏まらない。本当は、今すぐにでも自らの手でペニスを扱いてしまいたいくらい、体の熱は高まっているが、両手は未だ頭の上で拘束されたままだった。
カシャリ……と、手錠の鎖が音を立てる。幾つもの足音が、貴司の部屋を出入りするような音が耳には入ってくるけれど、それすら遠く感じられる。
「ん……ふうっ」
極められないもどかしさに、腰が自然と動き出し、太股の間に挟んだシーツへと、無意識の内に貴司はペニスをモゾモゾと擦りつけはじめた。そんな少しの刺激なんかじゃ全く満たされないけれど、それでも、僅かながらだが体は楽になってきた。
「あっ……んぅ」
――こんなこと……ダメなのに。
微かな理性が頭をもたげて貴司は小さく首を振るが、もっと強い刺激を求める体は意思を裏切り続ける。
「んぅ……あぁ…ん」
アナルの奥の疼きと痒みも更に酷くなってきて、抗い切れない快楽の渦に貴司の体が震えだし、切ないような喘ぎが口から漏れた時、その体がシーツごと強い力に囚われた。
「駄目だよ、一人で遊んじゃ」
耳元へと囁かれ、貴司の体がビクリと跳ねる。
「あ……あっ」
「ごめん。辛かったよな。片付けが済んだから……今、楽にしてあげる」
声と同時に顔のタオルが払われて、まずは視界が戻ってきた。その次に、長い時間嵌められていた開口具も外されて、途端に咳込む貴司の背中を聖一が軽くトントンと叩く。
「ゴホッ……セイ……セイ」
行為中、何度も何度も心の中で呼んでいた名前がそのまま口から溢れ出た。背後から抱きしめてくる聖一を、振り返って見たいけれども何だかとても怖い気がする。
「怖かった?」
耳を擽る優しい声に貴司は何度も頷いた。突然の嵐のような出来事に、貴司の心はずっと悲鳴を上げていた。だから、いつもは絶対見せない弱さを貴司はさらけ出してしまう。
「セイ……セイ」
「貴司……ここにいるよ」
繰り返し、うわごとのように名前を呟く貴司の耳に、聖一の舌がいきなりペロリと這わされて、それだけでも媚薬に侵され敏感になった貴司の体は、回りから見れば大袈裟な程にビクリビクリと揺れ動く。
「やぁ……あっ、あっ……セイ」
耳朶にカプリと歯を立てられて、切なげに喘ぐ姿がどれだけ相手を煽ってしまうかなんて、考えることもできなかった。
「貴司、どうして欲しい?」
「セイ……助けて、熱い……痒い」
甘えたような掠れた声で懇願する貴司の顎を指で掬い、振り返らせてキスを落とすと、聖一は、殴られた時にできてしまった口端の傷をペロリと舐めた。
「ここ、沢山注いで貰って気持ち良かった?」
「ひっ……やぁ……ああぁっ!」
シーツの中へと入り込んできた聖一の指が、いきなりアナルの奥深くまで突き入れられ、貴司の口から喘ぎ混じりの悲鳴が上がる。中に入った二本の指はVの形に開かれて、内側が外気に触れる感覚に、貴司の体が戦慄いた。
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