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「言葉のまんまだよ。貴司は今からここに住む。仕事を辞める手続きはもう済んでるから」 「なっ」  ――そんなこと、できるはず……ない。  口角を笑みの形に吊り上げそう言い放った聖一の顔を、呆然と、信じられない思いで見上げる貴司の胸に、ジワジワと不安な気持ちが込み上げる。 「どうして……そんな勝手なこと」  乾いた声で問い掛けながら、至近距離にある聖一の瞳を見つめるうち、彼の言葉が嘘や冗談じゃないことが本能的に分かってしまった。 「俺のモノになるって約束したよね」 「俺は……物じゃない」  起き抜けに色々なことを考え過ぎたせいなのか、何だか頭がクラクラするけれど、構っている場合じゃない。 「手を……離せ」  聖一の物になると確かに言ったけれど、それは、自分が彼の恋人になるという認識での言葉だった。彼の望みを叶えたいと思ってここまできたけど、それはこんなに一方的な関係ではなかったはずだ。 「離さない。起きたりしたら体に悪い。貴司はまだ寝てないとダメだよ。それとも、途中で眠らせちゃったから、中途半端で疼いてる?」 「違う」 「違わない。あの時の貴司、凄く気持ち悦さそうだった」 「そうじゃない!」  話がまったく噛み合わない。冷静に考えられれば、聖一がわざと話を擦り替え、混乱を誘っていることにすぐに気づけたはずなのに……この時貴司は乱れてしまった自分の姿を思い出し、心の中が恐怖と羞恥で一杯になってしまっていた。 「離せっ!」  とにかく何とか逃げ出したくて叫んだ貴司の唇は、聖一の唇によってあっという間に塞がれる。下肢へ這わされた彼の掌がペニスへと触れてきたところで、拭えぬ恐怖に震えた貴司は付き合ってから初めて本気で彼の行為を拒絶した。  暴行を受けて弱った心は、『縋りつきたい』と、貴司に訴えてかけてくるけれど、このまま彼の言いなりになれば大切なものを失う気がする。だから、逃れようと必死に足掻くと、頭上から舌打ちの音が聞こえ、続いて頬を何度か強めに叩かれた。  痛みは殆ど感じないけど、初めて彼から受けた暴力に貴司の体は竦み上がる。一切言葉を口にしない、聖一の無表情が心の底から怖かった。  それでも、仕事をして、普通の暮らしていくという、叶ったばかりのささやかな夢を壊す権利など彼にはない。それを分かって欲しかったから、震えながらも必死に彼を押し退けようとしたけれど、その結果は非力な自分を思い知るだけのものとなった。 「ふっ……うぅ、ん」  また唇を塞がれる。悦い所を知り尽くしている彼の巧みな指遣いにより、下半身へと熱が集まり、口づけによって呼吸を奪われ、段々と……息をするのも苦しくなる。それでも絶対負けたくはなくて、がむしゃらに暴れ続ける貴司の頭には、先程彼に言われた言葉が何度も何度も響いていた。 『気持ち悦さそうだった』  彼の放ったその一言に、かなりのショックを受けた貴司は、悔しくて、悲しくて、心が痛くてたまらなかった。  聖一には、本当にそう見えたのだろうか? 彼が何を考えているのか、全くもって分からない。

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