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――何?
次々聞こえる破壊音に貴司はビクリと竦み上がる。
――セイは、大丈夫なのか? それとも……まさか、セイが暴れてる?
無意識の内に聖一のことを思ってしまっていることになど、気づく余裕もないままに、奮える貴司の視線の先でゆっくりとドアが開かれた。
「あ……」
間抜けな声が零れ出る。開かれたドアの向こうに見えたのは、聖一の姿ではなかった。
「お前がセイの猫?」
「き……君は?」
ついさっきまで鳴り響いていた大きな音が止んでいることに気がついて、震える声で貴司は問う。男らしく整った容貌をした青年は、一見すれば真面目そうだが彼が暴れていたのだろうか?
「セイ……は?」
聖一の姿が見えないことが何より今は不安だった。シーツを引き上げ体を隠し、小さく震える貴司の姿に青年が一つ息を吐く。
「はじめましてって言えば良いのか? とりあえず、お前に危害は加えない。俺は北井浩也、セイのツレ……だった」
「っ!」
部屋の中へと踏み込みながら彼が放ったその言葉に、貴司は思わずコクリと唾を飲み込んだ。
「名前は知ってるみたいだな。セイなら、あっちの部屋でのびてる」
言いながら、後ろを指差す彼の唇の端の辺りには、薄く血が滲んでいる。それを見て、ことの成りゆきがぼんやりだけれど見えてきた。
「ごめんなさい」
きっと彼は、聖一が『ヒナ』にしたことの報復のために、ここへとやって来たのだろう。ならば自分にできるのは、謝罪と彼の怒りを受け止めることだけだ。
「セイと俺は、君の友達に酷いことをした。許して貰えることだとは思ってない。だから、君の気の済むようにしてくれていい」
頭を下げてそう告げるが、直ぐには返事が返ってこない。
沈黙が部屋の中へと流れ、不安になった貴司が顔を上げて見ると、瞳を眇めてこちらを見ている彼と視線が交差した。
「とりあえずお前には何もしない。俺は、セイに録られたヒナのデータを消しにきた。アイツにはその間、ちょっと眠って貰っただけだ」
「でも……」
そんなことでは済まされない。『ヒナ』を部屋へと連れて来て、凌辱するよう指示を出したのは確かに聖一だけれども、実際に彼を犯したのは自分と他の三人だ。
「言いたいことは大体分かる。でも、ヒナはそれを望んでない」
冷静な浩也の声音に貴司は何だか泣きたくなる。ベッド脇へと立っている彼は大人のはずの自分なんかより、ずっとしっかりして見えた。
「彼は、大丈夫なのか?」
「本当に大丈夫かはまだ分からない。けど、ヒナがお前を赦すって言うから俺はそれに従う。それに、俺は元々お前のことを責める立場にない」
その言葉の裏側には深い事情があるのだが、何も知らない貴司にとっては浩也にこそ、自分を責める資格があるように思えてしまう。
「そんなわけには……」
「その話はもういい。謝りたければヒナに直接謝ればいいだろ」
絞り出した反論は、浩也の言葉に遮られた。
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